2024年10月20日日曜日

袴田事件雑感

袴田巌さん無罪確定へ 事件から58年 検察が控訴しない方針
2024年10月8日 22時03分 
58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件の再審=やり直しの裁判で、袴田巌さんに無罪を言い渡した判決について、検察トップの検事総長は8日、控訴しないことを明らかにしました。これにより一度、死刑が確定した袴田さんの無罪が確定することになりました。
NHK WEB
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 袴田事件が起こったのは今から58年前。私が2歳の時であるから当時の事件の記憶などない。それにしても、無実の罪で逮捕され、死刑判決を受け、長い期間拘束されていた心境はいかばかりかと思う。事件の真相を知る者は、袴田さんご本人と真犯人しかいないわけで、それを第三者が犯行を認定していくというのは難しい事である。本人が素直に自供すればいいが、そうでなければきちんと証拠固めをして公開の法廷で犯行を認定していかないといけないわけである。証拠がなければ有罪にはできないのである。

 ニュースによれば、捜査機関がその証拠の捏造を行ったという。その真偽はわからないが、認定の通りだとすると、とんでもない事である。なぜ、証拠の捏造などという事を行なったのだろうか。悪意的に罪に陥れようとしたものではないだろうから、たぶん当時の捜査担当者の強い思い入れから行き過ぎた行為に走ったのだろう。すなわち、「犯人はこいつで間違いない」という強い思いと、「だから証拠を捏造しても構わないだろう」という考えだったのだろう。犯罪を犯したのは間違いないのだから、その罪を償わせるためには証拠の捏造もやむをえないと考えたのだろうと思う。

 日本の法律では証拠の捏造がダメなのは当然として、確かな証拠であったとしても違法に収集されたものだと裁判では使えないことになっている。そうでなければ人権侵害が起こるという過去の歴史の経験から決められたルールであるが、「正義であれば何をしてもいい」という考え方への否定である。それが捜査機関の足枷になることもあるのだろうが、そうしたルールを守ってもらわないと、ある日突然無実の罪に問われるなどという事が起こりかねないことになる。「刑事の勘」で犯人にされてはかなわない。

 当時捜査にあたった警察では、内部でどんなやり取りがあったのだろう。被害者の身近な人物の中では、確かに袴田さんに怪しいところはあったのだろう。「こいつに違いない」と思い込んだ人たちがいて、「なんとか自供させろ」という動きになったのだろう。そういう中で、ひょっとしたら他に犯人がいるかもしれないと疑った刑事もいたかもしれない。しかし、組織が「袴田犯人説」で動く中で、それに反した行動は取れなかったのかもしれない。ましてや起訴した後に真犯人を捜査するなどという自己否定的な行動は許されなかっただろう。

 事件は日々起こっているし、起訴してしまえば警察の役割も終わりであり、あとは起訴した以上なんとしてでも有罪にしなければならない検察が、死刑判決に満足して終わりである。後でいくら無罪を訴えても、素人に犯罪捜査は不可能だろうし、その結果長い法廷闘争となる。そしてその間、恐ろしい事に(警察の捜査は終了しているので)残虐な事件を起こした真犯人は捕まる心配もなく安堵して生活していたわけである。考えてみるになんともやり切れない思いがする。

 警察も当然、善意の下で行動していると思うが、本当に真犯人を逮捕するという大前提の下、「刑事の勘」などに頼ることなく、さまざまな可能性を考慮してしっかり捜査してほしいと思う。今はいろいろと「可視化」されて冤罪を防ぐ仕組みができているが、人間の考え方はなかなか変えられるものではない。硬直的な考え方で思い込み捜査をやられては、仕組みの裏をかく事を今度は考えるようになるだろう。「裁判で有罪にする」ためだけに尽力してほしくはないと思う。一方で、捜査の手足を縛れば犯人が逃げ延びる可能性は高くなるわけで、なかなか難しい事だと思う。

 「法でさばけない悪を退治する仕事人」が映画や漫画などで持て囃されるのは、ある意味厳格なルールで縛られた捜査の裏返しであるかもしれない。それはそれで我々市民にとっても、映画の関係者にとってもいいことかもしれない。幸い、これまで犯罪関係とは無縁の生活を送ってこられたが、これからも犯罪とは無縁に暮らしたいと、袴田さんに深く同情すると共に思うのである・・・

James Timothy PetersによるPixabayからの画像

【本日の読書】
世界をよくする現代思想入門 (ちくま新書) - 高田明典  逆説の日本史: 大正混迷編 南北朝正閏論とシーメンス事件の謎 (28) - 井沢 元彦






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