2024年7月21日日曜日

ハッキリ言いにくい

エレガントな毒の吐き方 脳科学と京都人に学ぶ「言いにくいことを賢く伝える」技術 - 中野 信子

 『エレガントな毒の吐き方』という本を読んだ。著者は脳科学者の中野信子氏。サブタイトルに「脳科学と京都人に学ぶ『言いにくいことを賢く伝える』技術」とあるが、あまり脳科学とは関係ない。むしろ京都人の「イケズ」を採り上げてこれをメインテーマとしているのが特徴である。京都人のイケズとは「ぶぶ漬け」が有名であるが、遠回しに言いにくいことを言うことである。

 個人的には、昔から「言いたい事はストレートに言う」というのが好みで、以心伝心など都合の良い言い訳に過ぎず、人間はやはりハッキリ言わないと伝わらないと考えている。子供の頃からそれでよく母親と言い争いをしたし、いわゆる「空気を読む」のも苦手であり、嫌いである。若い頃は女性に振られると、なぜなのかと理由を知りたがった。どうして自分ではダメなのだろうかと。しかし、誰1人としてその理由を教えてくれる女性はいなかった。

 銀行員時代には、よく融資の申し出を断る場合に理由として「総合的判断」という言葉を使っていた。お断りすれば、当然相手はその理由を知りたがる。しかし、その理由をハッキリ言うと相手はそこにつけ込んでくる。「担保がない」とすれば、「では担保があれば良いのか」とか、財務内容が理由だとすると、次の決算までにそこを直せば良いのかとなる(もちろん良い場合もあれば、ダメな場合もある。ダメな場合は、「前回そう言っただろう」とのクレームになる)。経験則上、「総合的判断」と言えば、それ以上のツッコミはかわせるのである。

 おそらく、私がかつて女性たちに振られたのも「総合的判断」だったのだろう。「何となく違う」という気持ちも今なら理解できるし、自分なりにダメだった理由もわかるし、もしもう一度時間を戻せたら、今度こそうまく行く自信はある。そんな経験を繰り返してきたからか、「ハッキリ言わない」という良さも悪さもわかっているつもりである。しかし、それでもやっぱり「ハッキリ言う」方がいいと思うのは今も同じである。会社でも基本的にそれで通している。人事評価などは本人にハッキリ伝えているし、聞かれれば余程の秘密事項でない限り、業績なんかも含めてすべての社員に教えている。

 しかし、やはり言い難いことはあるもので、さすがの私もハッキリ言えないことがある。それは同じ役員に対する意見である。その役員は叩き上げの古参役員で、もちろん私が転職して入社した時にはすでに役員であった人物である。ところが当時から、役員というより部長的発言が多く、私も違和感を禁じ得なかったのである。我々は小規模な中小企業であり、役員は全員担当部門の部長を兼務している。そこで「役員とは」を理解していれば問題はないのであるが、その役員はそれを理解していないのである。

 会社の業績目標未達に際し、「自分の部は目標を達成した」と主張する。「達成できなかったのは他の部の責任であり、自分の責任ではない」と。部長としてはその気持ちはわかるが、役員は全社ベースで考えないといけない。自分の部の成績も大事だが、それも全社目標を達成した上での話である。私も総務部という間接部門を担当しているが、どうやったら業績目標を達成できるのか、自分の部署とは関係なくても「役員として」責任を持って意見具申している。

 それがあらゆる所でそういう言動が目につき、社長との折り合いも悪い。どうにもいかがなものかと思うも、やはり同じ役員としてハッキリ言うのも抵抗があり、間接的に気づいてくれるようにいろいろ試みてきた。社外の役員向け研修をあたかも社長の指示であるかのように装って一緒に受けたり(私にはわかりきった内容であった)、社外の講師を呼んで役員合宿をやって一緒に学んだり(もちろん講師には事前に狙いをネゴしておいた)、直接言わずに理解してもらおうとしたのである。ところが、やっぱり通じない。人間はやはり言葉で直接言わないと通じないものなのである。

 それはもう仕方がない。ただ、私の方が役員としては後輩だし、立場を尊重する必要もある。言われて素直に改善してくれればいいが、下手に感情的に対立されても困る。「猫に鈴をかける」のは確かに難問である。京都人ならどんなイケズを言うのであろうか。残念ながらそんなヒントになりそうな事はこの本には書かれていなかった。私はハッキリ言うのが信条ではあるが、人間関係も大事である。もう少し「遠回り戦略」を続けようと思うのである・・・


AlicjaによるPixabayからの画像


【今週の読書】
Mine! 私たちを支配する「所有」のルール - マイケル ヘラー, ジェームズ ザルツマン, 村井 章子  ある行旅死亡人の物語 - 武田 惇志, 伊藤 亜衣






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