2024年7月3日水曜日

よくわからないこと(財政均衡論)

ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト 森永 卓郎

 『ザイム真理教』という本を読んだ。ザイム真理教とは、財務省を揶揄した言葉。その内容は、財務省が強力に固執する財政均衡主義を批判したものである。財政均衡主義とは、簡単に言えば「収入の範囲内に支出を納める」というもので、現在借金漬けになっている我が国の国家予算を収支均衡させようという考え方である。令和6年度の予算は、歳入が約77兆円。これに対して歳出が約112兆円。その差額35兆円は国債発行による借金である。1年間ならまだしも、こんな状況がずっと続いており、国の借金は膨れ上がり続けている。

 普通に考えれば、いったい政府は何をやっているのかと思う。歳入を増やすか、歳出を減らすかして収支均衡させるのは当然だと思う。しかし、歳入を増やすとはすなわち増税であり、歳出を減らすことは国民へのサービスを減らすことであり、これも難しい(というかまぁ、できる事はやってほしいが、やらないのをやらせる難しさも含んでいる)。「子孫に借金を残す」とかの批判もあるし、問題先送りに対する危惧もある。何も手を打たずにズルズル行って大丈夫なものとも思えない。

 そんな危惧に対し、実は問題はないのだと言うのが簡単な趣旨。財政均衡しなくても良いという意見は、一見「本当か?」と思わされる。短期的に財政均衡主義が正しくないのは簡単に理解できる。個人で言えば、家を買うなどの場合はどうしてもローンを組むなどの必要性がある。「収入の範囲で」などと言っていたら家などは買えないだろう。個人の場合は人生という決まった期間があるから、その範囲内で財政均衡を図る事になる。私もあと10年で住宅ローンを完済できる。

 しかし、国家の場合は個人のような期限はない。どのくらいのスパンが適正と言えるのかはわからない。現状はほぼ無期限の状態であり、だからこそ問題があるように思う。しかし、この本はそれすら問題ではないと言う。1つには借金は国債という形で行われているが、「永久に借り換えれば元本を返す必要はない」といい切る。国債は銀行などが引き受けるが、量が多くなれば引き受けきれなくなると思う。ただ、日銀が引き受けるとなると大丈夫という理屈なのだろう。

 日銀が国債を買った瞬間に政府は実質的に返済義務を負わなくなると言う。確かにいざとなればお金を印刷すればいいわけなので、そういう理屈は成り立つ。そんなことをすれば激しいインフレを招いて財政破綻するとかつて習った事があるが、現在の日本ではようやく物価の上昇が見られるようになってきた有様で、かつて習った理屈が当てはまるような感じではない。そして国家には「通貨発行益」があるので、これで賄えるとする。

 さすがによく研究しているのだろう、素人が「ここが間違っている」と指摘できるようなところはない。ただ、だからといって素直に感動できるものではない。何となく腑に落ちないという感覚が残るのである。著者は財務相を徹底的に悪者にし、その財政均衡主義を信じる人たちをその信者にたとえる。だから「ザイム真理教」なのである。著者の主張は既に「MMT/現代貨幣理論」としても知られているが、本当のところはわからない。

 本来、国は国家として国民の生活を守るために必要なお金を税金という形で徴収するのが本来の形である。その意味では、短期的にはともかく、長期的には財政均衡主義は当然であると思う。ただ、通貨を発行し続ければいずれどこかの段階でインフレになる。モノが増えればそのモノの価値は下がるのは道理で、お金も例外ではない。お金が増えればお金の価値が落ち、物の値段が上がる。そうするとそれに引きずられて借金の価値も減るという考え方もあるように思う。

 『島耕作』シリーズの「学生編」では、1969年が舞台となっているが、その中で「3百万円で家が建つ」というセリフが出てくる。今とは1桁感覚が違う。いずれお金の価値が落ちて行けば、1,200兆円の借金も120兆円、12兆円くらいの感覚になっていくのかもしれない。今月は40年ぶりに新紙幣が発行されると話題になっているが、同じ1万円札でも渋沢栄一より福沢諭吉の方が価値が高く、さらに聖徳太子の方がもっと価値が高いと言える。今でも「聖徳太子」と言っていた頃の1万円札には重みがあった気がするのは、決して気のせいではないという事である。

 実際のところ、ザイム真理教は著者の言う通り愚かな信者なのか。何となく白黒曖昧なまま行くような気もするが、興味関心は持っていたいと思うのである・・・


Jens NeumannによるPixabayからの画像

【本日の読書】
思考の技術論: 自分の頭で「正しく考える」 - 鹿島 茂  射精道 (光文社新書) - 今井 伸  心はあなたのもとに (村上龍電子本製作所) - 村上 龍





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