2024年8月4日日曜日

提案力が大事

 私が働く会社はシステム開発の会社である。私はと言えば、銀行、不動産と仕事をしてきたがエンジニア経験はないので、今の会社の本業はよくわからない。わからなくとも、取締役という立場上、わからないから何もしないというわけにはいかない。みんなどんな仕事ぶりをしているのか、それがいいのか悪いのかも判断がつかない。私の担当は財務・人事・総務部門なのだが、それでも問題意識を持っていて、聞こえてくる話を基に考えてみたところ、どうやら社員のみんなには「提案」という考えが弱いらしい事に気がついた。

 「提案」とは文字通りであるが、「言われた通り」にするのではなく、こちらから「こうしたらどうか」と働きかける事である。これがあるかないかで、仕事の成果もだいぶ違ってくると思う。銀行は以前は護送船団方式で、どこにお金を預けてもどこでお金を借りても一緒であった。だから提案力がないと取引も厚くならない。現実にはそれまでの「お付き合い」を基にしたお願いベースで取引を増やしていたのであるが、「こんなことをしてみたらどうか(資金はご融資いたします)」という提案ができれば、他行に差をつけられたものである。

 前職の不動産業時代、とあるアパート大家からトイレにウォシュレットを設置したいという相談を受けた。全室で確か30万円くらいだったと思う。私はそこで、「なんでウォシュレットなのか」と聞いたところ、話を聞いてきた担当者によると、「女性を入居させたいから」という事であった。ウォシュレットのない部屋だと女性に敬遠されるという事でウォシュレットを設置したいという事になったそうなのである。しかし、ならば「ウォシュレットでいいのか」という疑問がその時私に湧いた。

 当時、私も賃貸住宅の競争力アップに関心があり、いろいろと考えていて、「デザイン」という事に行き着いていた。クロスから始まり、キッチンなど独自のデザインにしてこの部屋に住みたいと思わせれば、他との比較にならずに済むと考えたのである。価格競争(家賃の値下げ競争)に陥らずに済むと。そこでウォシュレットだけでなく、部屋の内装についても女性が喜びそうなものにしようとオーナーに提案することを提案した。ところが社内の反応はイマイチ。というか及び腰であった。

 それもある意味当然で、それまで誰もそんな発想など持っていなかったからである。いろいろと議論する中で、社長が言ったのは「理屈はわかるが、まずはお客さんの言う通りにきちんとする事が大事ではないか」という事であった。もっともらしく聞こえるが、要は「言われた事だけやりましょう」という事である。それがお客さんの希望であり、それに応えていれば問題はないという事である。しかし、それだとお客さんがうちに依頼する理由は何だとなると、「価格(どれだけ安いか)」になってしまう。つまり価格競争になるという事である。

 価格競争はどれだけ安いかの競争。それだと利益を減らすか、原価を落として(それは質を落とす事にもつながる)いくという事になる。しかし、価格以外の価値を提供できれば価格競争から脱する事ができる。普段から社員には「言われた事だけしていてはダメ」と言っているのに、お客さんに対しては「言われた事だけしましょう」というのはないだろうと私は反論した。そんな仕事をしていては、いつまで経っても相見積もりからは抜け出せず、薄利に苦しむ事になる、と。

 残念ながら、結果的にその時点では会社にそれだけの提案力がなく、薄利でその仕事を請け負った。後日、内装力アップに取り組むきっかけにはなったが、「提案」という事を考えるいい例だと思っている。提案力とは会社の競争力そのもののように思う。たとえこちらの提案に反対されたとしても、それはそれで構わない。その時点で初めてお客さんの言う通りにすれば良いのである。その提案は、きっとどこかで相手の心に残っていて、次の機会に繋がるのであれば、その効果はあったと言えるわけである。

 提案と言っても簡単にできるものでもない。必死になって考えないと相手の心を動かすような提案はできないだろう。だが、だからと言って言われた事だけしていてもいいと言うわけではない。そこに甘んじていると、提案をしてきた競争相手に仕事を取られるかもしれないし、現実的に我が社のある長期プロジェクトでは単価のディスカウントを要求されてしまった。「何も提案もしてくれないし・・・」と言うのが相手の担当者の弁。仕事の質を高める事を意識しないといけないが、そのための具体的手段が「提案」であると思う。

 個人でも言われた事だけしている人よりも、いろいろと意見を出してくる者の方が頼り甲斐があるように思える。一味違う事を見せるためにも、「提案」は欠かせないと思うのである・・・


Davie BickerによるPixabayからの画像

【今週の読書】
歴史学者という病 (講談社現代新書) - 本郷和人  父が息子に語る 壮大かつ圧倒的に面白い哲学の書 - スコット・ハーショヴィッツ, 御立 英史




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