2022年5月30日月曜日

役員とは

 役員になるということは、サラリーマンとしては成功した一つの証と言えるであろう。もっとも会社の規模によって同じ役員にも雲泥の差が出るのは当然である。上場企業の役員ともなれば、ステイタスもあり、個室をもらったり送迎の車がついたりもするかもしれない。報酬も然り。しかし、中小企業となれば、「名ばかり」というところも少なくない。私が学生時代にアルバイトをしていた防水工事の会社は、社長、専務、高齢の職人さん1名、経理のおばちゃんという4人の会社だったが、専務は個室でふんぞりかえるどころか、現場で先頭に立って汗を流していた。

 

 昨年、転職した我が社は、従業員は100名に満たない会社であるが、役員は社長含めて3名であり、この春から私が「執行役員」の肩書きをいただいたので、「役員会」は4名で行っている。小さいとは言え、規模的にはある程度「名ばかり役員」にはならないはずであるが、実態はちょっと怪しい。というのも役員の中に、どこかその言動に役員らしからぬところが見え隠れする者がいるのである。果たしてそのあたり、どの程度「自覚」を持ってやっているのだろうかと疑問に思うところである。

 

 そもそも役員とは、一般的には「取締役」のことである。そして取締役とは会社の経営者である。一般的には、従業員が出世して取締役になる場合、一旦、「退職」する。それは「雇われる側」から「雇う側」に変わることを意味する。退職金をもらって退職し、その瞬間から従業員ではなくなる。雇用保険の対象からも外れるので、失業しても失業手当てはもらえない。従業員の雇用は守られているが、取締役は株主総会で選任されなければ次の日から即失業である。そうした不安定な身分ゆえに、業績が良ければそれなりに報酬をもらうのも当然となる。

 

 しかしながら、大手の企業であればともかく、中小企業であればある日突然役員になれと言われ、退職金をもらって少し嬉しく思いながら役員に就任したのはいいが、それまでとあまり意識も行動も変わらなかったりする。たとえば、当社の場合、取締役と言っても事業部の部長を兼務している。部長とは従業員であるから、「雇う側」でありながら、「雇われる側」の仕事をしていたりする。1日の仕事の大半は「部長」としての仕事であったりすると、「役員(取締役)」という意識が希薄になるのも無理はないかもしれない。

 

 取締役は経営者であるがゆえに、会社の経営について考えるのが仕事である。我が社は「取締役会設置会社」であるから、会社の最高意思決定は取締役会(の多数決)で決まる。つまり、社長が「やる」と言っても、他の2人の取締役会が“No”と言えば、社長の決定を覆せる。それだけの権限が取締役には与えられているわけであり、そういう自覚のもと、「自分ならいかにしてこの会社を経営するか」という意識と考えを常に持っていないといけない。「部長気分」ではいけないのである。

 

 しかしながら、やっていることは同じだから考えは「部長」である。今回、あることを巡って取締役の1人が社長の意見に異を唱えている。それ自体悪いことではないのであるが、「ではどうするのか」というところになると、その意見はいかがなものかと首を傾げざるを得ない。すなわち、「自分としてはやれない」と断言するだけで、「では誰がやるのか」とか、「それで会社がいい方向に向かうのか」という疑問には答えられていない。取締役であれば、自分の考えもいいけれど、まず「会社にとって何がいいか」を優先して考えなければならない。

 

 そういう考え方にならないのも、部長の延長上にいる、あるいはまだ思考回路は部長(事実部長なのであるが)のままなのだろうと思う。部長としての発言ならまだしも、会社の舵取りをしなければならない取締役としてはいかがなものかという言動なのである。社長も交えて議論したが、平行線のまま。それは立場の違いによるものであるから一致させるのは難しい。ただ、「会社にとってそれはいいことか」「今後それで会社をどう動かしていくか」と問うた時に、当該取締役は答えられない。本当はそれではいけないのであるが、「部長思考」に凝り固まっているため、そこに気がつかない。

 

 それはやはり長年培われた「従業員思考」が抜けていないのである。長年、社長の指示を受ける立場で働いてきて、主任、課長、部長と出世してきた末に、ある日突然「社長と同じ立場(の取締役)」と言われてもピンとはこないだろう。他の企業の様子はわからないが、そういう取締役は多いのではないかと思ってしまう。特に社長がワンマンの傾向が強いとそうなってしまうのではないか。それを防ぐためには、やはり就任時にきちんと説明して自覚を促すほかはないように思う。

 

 かく言う私は執行役員であるが、これは会社法上では取締役ではない。あくまでも立場は従業員である。ただ、「役員」と言う名称がつき、「役員(取締役)会議」にも顔を出させていただいている以上、「会社を経営している」と言う意識は持つようにしている。「何が会社にとっていいのか」「目指すべき方向は」などは常に意識している。「人の振り見て我が振り直せ」ではないが、取締役ではなくても、そういう意識を持っていたいと思う。そしてそれは、役員になってから持つべきものというのではなく、常日頃からそういう意識を持っているべきだと言える。

 私自身、そういう意識をいつから持てるようになったかはわからないが、今はそういう意識で行動したいと思うのである・・・

CourtanyによるPixabayからの画像

【今週の読書】

 



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