2009年7月3日金曜日

椿山課長の七日間

Dream as if you’ll live forever,
    live as if you’ll die today!
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浅田次郎の小説を久しぶりに読んだ。
「鉄道員(ぽっぽや)」で衝撃を受けて以来、浅田次郎の作品は機会があれば読んできたつもりであったが、まだまだ読んでいないものも多い。この本は映画化もされているが、映画の方はまだ観ていない。期待しながら手に取った一冊である。

「鉄道員」は死んだ娘が父に会いにくる話であった。
「地下鉄に乗って」も父親の過去を見る話であった。
そういう一見荒唐無稽な設定が心を打つストーリーの伏線となったりする。この物語は突然死んでしまった一人のサラリーマンが、やり残した事をすべく現世に戻ってくる話である。考えてみれば我々とていつ死ぬかわからない。それがいつだろうと、たぶんやり残した事は椿山課長ならずともたくさんありそうな気がする。

 椿山課長の心残りは非常に現実的だ。妻とまだ小学生の息子の行く末。ローンの残った家。まさにかき入れ時の仕事。ボケて老人ホームにいる父。さらに体の付き合いのあった女性。自分の身に置き換えてみれば実に身につまされる話である。

あの世とこの世の中間で死者を導く役割を担う役所が冒頭に出てくる。
登場人物たちが現世に戻る手伝いをする様をユーモラスに展開してくれる。
しかも生前はデブでハゲの中年サラリーマンだった椿山課長が、美女として蘇るのだから、なんとなくそのままコメディーになってもいいような展開となる。
こうした遊び心も物語に幅を持たせてくれるものである。

人間は誰でも自分がすべてわかったような気でいるものである。
しかし、当然の事ながら相手の胸の内まではわからないもの。
目の前に見えている事実だけがすべてではない。
死んで他人として蘇る事で、椿山課長も今まで気がつかなかった事実を一つ一つ知る事になる。
やっぱり自分もいろいろ気付かない事を抱えて生きているのだろう。
そんな思いが脳裏をよぎる。

椿山課長とたまたま一緒に蘇るヤクザの親分と7歳の少年。
3人が蘇りを希望した理由は、みな家族や身近な者への愛情ゆえだ。
そうした愛情を描き出すのは浅田次郎は得意である。
登場人物たちはみなそれぞれに他者への愛情を胸に秘めている。
そしてみんな自分の事よりもそれらの愛情を優先する。
そんな愛情の一つ一つが静かに心に染み入る・・・

自分もそんな愛情を身近な者に送りたい。
そして知らないうちに自分に向けられている愛情にも気付くようにしたい。
涙腺の弱い人は通勤電車の中でなんて間違っても読まない方がいい。

映画の方も観てみたいと思う。
まだ読んでいない方にはお勧めの一冊である・・・
   

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