2024年6月9日日曜日

弁護士のアドバイスをどう使うか

 知人から相談を受けた。その知人は、実家の処分の事で頭を抱えていた。実家にはもともと老親が住んでいたが、認知症を患って施設に入居することになり、実家が空き家となったと言うのである。今よくある問題である。老親が実家に戻ることはもうなく、2人の子供もそれぞれ自宅があるので戻ることもない。もう処分するしかないとの事であった。しかし、売却するには老親の意思確認が必要であり、認知症ではそれもできない。成年後見制度の利用という方法しかないが、手続きが億劫である。

 そこで子供2人で話し合い、空き家のままだと物騒なので取り壊そうという事になったそうである。そしてその前にまずは家の中の家財の処分が必要であるとなり、そこでどういう経緯か知らないが、知り合いの弁護士に意見を求めたということである。ところが、相談したところ、「それはできない」と言われてしまったそうである。売却は難しいとしても、せめて空き家のまま放置する事態は避けたく、なんとかならないものかと頭を抱えていたのである。

 私は話を聞いて、「すぐに処分しても大丈夫ですよ」と知人に伝えた。弁護士でもない私がそんな事を言うものだから知人は驚いて理由を聞いてきた。弁護士に正面切って聞けばそういう答えが返ってくるのはある意味当たり前で、弁護士としてはそう回答せざるを得ないのだろう。だが、建前の法律論と実際論とは違うのであり、そこが大事なところである。もちろん、当然ながら弁護士が間違っているわけではない。ただ「実際的でない」だけなのである。

 私は常々、言葉は悪いが、弁護士は「使うもの」だと思っている。わからないからと言ってすべておんぶに抱っこで「お任せ」するものではなく、常に自分が主体で、必要なアドバイスや法律事務を代行してもらう存在である。自分がやりたいと思う事を代わりに判断してもらうのではなく、「どうしたらできるのか」を一緒に考えてもらうのである。法律の世界は独特のところがあり、専門家の手助けは必要であるが、主体はあくまでも自分である。

 先の相談においても、気の利いた弁護士であれば「やっても構わない」と言ってくれただろうと思う。私は法学部出身だからわかるのでしょうと言われたが、法学部の学生だったからといっても知識レベルで言えば、「法律にアレルギーがない」というレベルでしかない。ただ、素人でも突き詰めて考えればわかることもある。質問の仕方次第で必要な答えを得られるのである。つまり、先の相談であれば「違反したらどうなりますか?」と問えばいいだけである。それであれば、法律に詳しくなくても誰でもできる。

 その質問にはきっと、「訴えられる」という答えが返ってくる。そこで「誰に?」と問えば、「所有者に」となる。続いて「所有者とは誰か」と考えれば、それは「認知症の自分の親」であるとなる。つまり、「認知症の親に実の子供が訴えられる」リスクがあるわけである。そうなればあとは考えるまでもない。さらに法定相続人である2人の子供同士は仲が良くて、親の財産に対して揉めることはない。となれば、まったく問題などない事が明らかである。

 私も前職では不動産管理の業務に携わっていたが、この業界では「家賃を払わずに夜逃げした人が部屋に残した荷物」に難儀することが多々ある。部屋を片付けないと次の人に貸せないが、所有者に断らずに勝手に処分することはできない。保管するにしても場所と費用がかかり、大家さん泣かせなのである。これも私は(結局、一度もなかったが)処分したって問題はない(もちろんケース・バイ・ケースではある)と考えていた。現実的なリスクを考えれば実際面は問題がないケースがほとんどだろうと思うからである。

 私も性格的に「丸投げお任せ」は基本的に好きではない。弁護士に頼む部分を明確にし、主体として自分でとことん考える。それには面倒なこともあるが、自分の「考える力」を養うにも納得いく結論を得るためにも必要であると思う。こうした考える力をこれからも維持していきたいと思うのである・・・


succoによるPixabayからの画像


【今週の読書】
  思考の技術論: 自分の頭で「正しく考える」 - 鹿島 茂 考える葦 - 平野啓一郎 地図と拳 (集英社文芸単行本) - 小川哲




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