2024年6月12日水曜日

論語雑感 泰伯第八 (その1)

論語を読んで感じたこと。解釈ではなくあくまでも雑感
【原文】
子曰、泰伯其可謂至德也已矣。三以天下讓、民無得而稱焉。
【読み下し】
子(し)曰(いわ)く、泰伯(たいはく)は其(そ)れ至(し)徳(とく)と謂(い)う可(べ)きのみ。三(み)たび天(てん)下(か)を以(もっ)て譲(ゆず)り、民(たみ)得(え)て称(しょう)する無(な)し。
【訳】
先師がいわれた。「泰伯たいはくこそは至徳の人というべきであろう。固辞して位をつがず、三たび天下を譲ったが、人民にはそうした事実をさえ知らせなかった」
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 「謙虚」という姿勢はこの世の中を渡って行く上で確かに必要であると思う。海外ではいざ知らず、我が国では特にそうだと思う。オリンピックで表彰台に立った人が、「みなさまのご声援のおかげです」と言う。しかし、そんなことはなく、ほとんどはその選手個人の努力の賜物であり、声援のおかげなどはわずかだろうと思う。まぁ、接戦で応援をもらうと力を得る事は事実なので、そういう効果がないとは言えないが、本人の努力あっての成果である。

 「おかげさまで」という感謝の心は確かに大事だと思う。この世の中は1人で生きていけないものであり、協力しあって譲りあって生きていく必要がある。すべて自分の手柄と胸を張る人間は、たとえそれが事実だとしても、周囲から疎まれることは間違いない。我が国の社会は、人より下を良しとする「謙譲社会」と言えるかもしれない。「俺はお前より上」というよりも「私はあなたより下」という人の方が好感を持たれる。それでみんなが安心を得られるのかもしれない。

 しかし、過度な「謙譲」は煩わしくもある。よくあるのが往復はがきである。差出人は返信用の自分の名前の下に「行」と記す。そしてそれを受け取って返信する人はその「行」を二重線で消して「様」あるいは「御中」と書き足して返信する。アマノジャッキーな私は企業宛の場合はあえてそのまま出しているが、たまに部下がそれをこっそり「御中」と修正して出してくれている。それはどうなのかと思う。

 相手の事を考えたら、最初から「様」としておけばいいはずである。ところがそれは自分に対して「様」を付ける行為であり謙虚ではない。そこで「行」とするが、今度はそれを出す方はそのまま出すのは失礼だと「様」にして出す。自分がへりくだるために相手によけいな手間をかけさせるのは、相手の都合よりも自分の都合を優先している行為であり、おかしくはないかと思う。だから私は、個人相手はともかく、法人相手の場合は「行」のままあえて修正せずに出しているのである。

 我が国の社会が謙譲社会なのは、「出る杭は打たれる」社会なのと同根なのかもしれない。みんなが平等なので、「オレが上」=「出る杭」となるのかもしれない。「私の方が下」とへりくだっていれば叩かれる事はない。そういう人に周りは安堵し、「応援してやろう」という気になる。そういう図式が出来上がっているように思う。転勤や転職で新しい職場に来た人が「ご指導ください」と挨拶すれば受け入れられるし、下手に反発を食らえば仕事もやりにくくなるかもしれない。よけいな敵を作らないという意味では、へりくだっておけば間違いない。

 スポーツでは、いくら実力があろうと傲慢に見えてしまう選手は人気よりも批判が多かったりする。かつてのプロ野球の落合や江川、ボクシングの辰吉、相撲の朝青龍なんかはそんなイメージがある(本人の実態はわからない)。実力があっても人格が備わっていなければダメだという理屈は理解できるが、その人格のバロメーターが「謙虚」という事なのかもしれない。ましてや実力がなければ尚更「謙虚」でなければならないのだろう。

 私自身はどうだろうかと考えてみる。会社では取締役という地位から必然的に社員よりは立場が上になる。それでも日々「謙虚」を心掛けているが、それは外様であるがゆえに「現場(システムエンジニアによるシステム開発)を知らない」という引け目があるからに他ならない。財務という得意領域はあるものの、肝心な本業では素人である。偉そうにしたくてもできない。また、シニアラグビーでは、自分よりうまいチームメイトがいる。ここでも偉そうにしていたら恥をかく。どちらも「謙虚」にならざるを得ない環境である。

 結局、力のない者が謙虚になるのは当然であり、それに対し、力があるのに偉ぶらないのは人格が優れているということになる。だから語り草にもなるのであろう。残念ながら私が語り草になる事はないだろうから、これからも分相応に謙虚に振る舞っていきたいと思うのである・・・

🆓 Use at your Ease 👌🏼によるPixabayからの画像

【本日の読書】
思考の技術論: 自分の頭で「正しく考える」 - 鹿島 茂  考える葦 - 平野啓一郎  地図と拳 (集英社文芸単行本) - 小川哲







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