2024年4月26日金曜日

理不尽について

 職場での何気ない会話で、「理不尽」という話になった。他人事でもあって、大して気にも留めなかったが、一方で世の中は理不尽であり不公平であると思っているので、腹を立てるのも空しいと感じている。腹が立つのは、世の中が公平であると勘違いしていたり、理不尽はおかしいと考えているからだろうと思う。そういうものだと思えば腹が立つこともない。もっとも、私も最初からそのように考えたわけではなく、理不尽さに腹を立て、不公平に憤ってきた経験を経てのものである。そういう経験をしている途中の人にとっては、当然の感情だろうと思う。

 その昔、銀行員時代、最初の役付者への昇格を目指していた時の事、同じ支店で私を含めて同期が3人、昇格を目指していた。しかし、周りから言われていたのは、「1つの支店で昇格できるのは1人」という事。それを聞いて「おかしいじゃないか」とまず思った。昇格者適格者が100人いて、トップ3が同じ支店にいたとしたら、2位と3位は昇格できず、他の支店の101位と102位が昇格できる事になる。アファーマティブアクションで、優秀な白人が不合格になり、それより劣る黒人が合格するようなものだろうと思う。

 さらに私の場合、ポジションが融資係であり、他の2人が取引先係という関係にあった。当時、取引先係は収益部門の先端であり、言ってみれば「攻撃」。対して融資係は言ってみれば「守備」。当然、点を取る「攻撃」の方が評価はされやすい。ホームラン王とゴールデングラブ賞のどちらが注目を浴びるかと考えてみればわかりやすい。他の2人がボンクラであれば私にも勝機があったと思うが、客観的に見ても能力は同じであり、結果は何となく予想できてしまった。その年、同期1人が先に昇格した。「理不尽だ」と感じた最初の出来事である。

 しかしながら、今にして思えばわからなくもない。人の能力など似たり寄ったりで、よほど目に見える成果がない限り正確に比較できるものでもない。ましてや守備と攻撃とのように違いがあれば尚更である。当時、他の2人と一緒に同じ融資係をしていたら、私は一歩抜きんでていた自身があったが、逆に私が取引先係で一緒に仕事していたら、同期2人ほど実績は上げられなかったかもしれない。それを公平に評価するのは無理だろう。勢い、最終評価者(支店長)の「好み」になってしまう。

 それを全店ベースに展開すれば尚の事であり、下手をすれば人事部に影響力のある支店長の支店の者がみんな昇格すれば、それはそれでまたおかしいとなる。理不尽と感じるのは、「昇格は能力や業績によって公平に決まる」という事と、「評価が正確に行われる」という幻想を抱いているからに他ならず、それゆえに理不尽(あるいは不公平)だと感じるのだろう。当時の支店長にえこひいきをするつもりなどなかっただろうし、むしろ公平にやったと思っているだろう。「理不尽」と言われれば心外だと思うだろう。

 そう考えると、理不尽とは「一方的な思い込み」とも言える。仮に昇格した同期よりも私の方が能力が上であり、支店長が「愛い奴」というだけで昇格対象者を選んだとしても、それはそれで支店長の持つ評価基準によった評価がなされた結果で、その支店長にとっては、仕事の能力も大事だが、上司とのコミュニケーションができる方が組織にとっては大切という判断なのかもしれない。そうなれば、それはそれで1つの判断であり、おかしいとは言い切れない。理不尽とはある人物から見た偏った見方なのかもしれない。

 昭和の時代にはパワハラなんてなかった。もちろん、今の基準でパワハラに該当する行為は溢れていたが、当時はそれをハラスメントという認識はしていなかったのである。怒る方にももっともな理由があったのだろう。それは今でもあると思うが、その表現方法を間違えると、パワハラになるのである。ハラスメントも外部からそれと視認できるものがあるが、被害者となる者がそれと認識して初めてハラスメントになるというところがある。お尻を触られても、それが好意を持っている相手なら笑ってすまされるかもしれない。

 理不尽もハラスメントも絶対的なものではなく、あくまでもそれと感じた個人の思いなのかもしれない。私も前職では、赤字会社を経営能力のない社長に代わって立て直し、6年連続で黒字にしたが、最後はあっさり会社をM&Aで売却されてしまい、私は首になってしまった。社員も皆1ヶ月分の給料相当の退職金で解雇されてしまった。社長は1人で億の金を手にして引退。誠に酷い話だが、社長にしてみれば法律違反をしているわけではないし、問題とは思っていないだろう。社長にとってはそこに理不尽などないのである。腹立たしいことではあるが・・・

 人の数だけ世の中には正義がある。片方には理不尽でも片方では正義であったりする。だから理不尽はなくならない。そういうものだと考えれば、腹も立たない。理不尽に腹を立てて我が身を痛めるよりも、そういうものだと思って流せればいいと思うのである・・・

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

    

【今週の読書】
資本主義の中心で、資本主義を変える (NewsPicksパブリッシング) - 清水大吾  三体 (ハヤカワ文庫SF) - 劉 慈欣, 大森 望, 光吉 さくら, ワン チャイ, 立原 透耶




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