2023年4月30日日曜日

遺伝子操作は是か否か

 先日、ウォルター・アイザックソンという人が書いた『コード・ブレイカー』という本を読んだ。2020年のノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナという女性科学者の自伝である。もともと著者は『スティーブ・ジョブズ』という自伝も手がけており、それが面白かったことから、他の著作も読んでみようと思ったところがある。ところでそのジェニファー・ダウドナであるが、何をしてノーベル賞を受賞したのかというと、「クリスパー」という遺伝子のゲノム編集ツールになるものを発見した功績らしい。タイトルもそんなところから来ているようである。


 内容的には興味深く読んだが、このクリスパーが発見されたことにより、遺伝子編集が可能になり、それによって遺伝子由来の病気の治療がいくつか可能になったという。DNAと言えば、直径が2nm(ナノメートル)という小ささであり、そんなミクロの世界のものを編集するというイメージなど湧かないが(どうやってやるのだろうかと思ってしまう)、それをやる事によって病気の治療ができるのであれば、それはそれで素晴らしいと思う。しかし、そこに「倫理」の問題が入ってくる。


 それはある中国人科学者の行為。両親がHIV陽性患者である者に対し、受精卵の遺伝子を編集してHIVに感染していない赤ん坊を誕生させたのである。それ自体、何が悪いのかという感じがするが、人間の遺伝子を編集するという神の行為に等しい行為を問題視する意見が当然のように出てくる。病気の治療ならまだしも、知能を高めたり、運動能力を高めたり、あるいはナチスのように優れた民族だけが残るような目的に利用されたらとか、深く考えていくとその指摘もよくわかる。


 果たして、遺伝子操作は人類が手を出すべきではない神の領域なのであろうかと疑問が湧く。そう言えば、よく「遺伝子組み換え作物」などというものが騒がれている。遺伝子を組み換えることで病気に強かったり、農薬に強くなって収穫量が増すというメリットがある作物である。先日観た『ジュラシック・ワールド新たなる支配者』という映画でも、あるバイオ企業が開発したの遺伝子操作作物が巨大化したイナゴの被害を免れるというエピソードが紹介されていた。そんなメリットの反面で、不自然な行為により健康被害が生じる可能性があるという指摘がある。


 そういう指摘は確たる根拠があるわけではなく、「何かあるんじゃないか」的な心配のように思うが、人間のDNAを操作する事についてもそんな部分があるように思う。もっとも、著者は富裕層が優秀な遺伝子を買ってそれを自分の家系に根付かせる事で、新たな格差が生まれるのではないかという危惧を挙げている。個人的にそうした遺伝子編集によって生まれた「スーパーマン」がオリンピックで金メダルを独占したりするとなれば違和感を感じるだろう。


 また、作中である聾唖夫婦が、「自分達は聾唖であったからこそ障害を乗り越えて今の自分になれた」として障害を肯定的に捉え、我が子にも障害を持って生まれるように遺伝子を操作するとしたらそれは認められるかを問う。これは思考実験であるが、もしもそんな理由で障害を持って生まれたのが自分だったら、たぶん両親を恨むように思う。遺伝子操作については、病気を治すという意味では肯定的に考えられるが、それ以外の部分ではやはり手を出すべきものではないように思う。


 では、美容分野もそうだろうか。今は美容整形もかなり普及している。あらかじめ豊満な胸を持ち、痩身になるとか、鼻筋が通った顔立ちになるとかのDNAを持って生まれれば、我が子も幸せな人生を送れるかもしれないと考えた親が、そうしたDNA編集を自分の受精卵に施すのはどうだろうか。ダメだとしたら、整形美人は良くて遺伝子整形美人がダメな理由はなんだろうか。「不自然である」ことがダメなら体外受精も不自然と言えば言えなくもない。遺伝子を編集する事について否定する考えは、「何があるかわからない」的な未知の不安であるに過ぎないように思う。


 そもそもであるが、なぜこの世界に生物の多様化が起こったのかと考えてみると、それはすべて遺伝子が完全コピーできなかった結果だろう。自然界でも遺伝子編集は行われているわけであり、それを人間がやってはダメだという理由はないと思う。植物や動物で異種交配はすでに行われており、人類は自然には生まれなかった種をすでに作り出しているわけである。人間でなければOKで、人間ではダメだという理由はなんだろうか。確かに富裕層だけが、美と健康を手にできるというのは問題かもしれないが、いずれ技術が進歩すれば世の中に広く普及することになるかもしれない。金持ちだけでなく、誰もが体外受精のように利用できるようになったとしたら、それでも認められるべきものではないのだろうか。


 個人的に胸にシリコンを入れた豊胸美人と遺伝子操作による豊胸美人とどちらがいいかと聞かれたら、私なら後者を選んでしまう。いずれにせよこの本に書かれていない問題が他にもあるのかもしれないから、今の時点ではなんとも言えない。我が家の子供も1人は体外受精であるが、その技術があって良かったと思っている。遺伝子編集ベビーは我が子か孫の時代の問題になるのかもしれないが、幸せになるための技術であるならそれはそれでいいのではないかと思うのである・・・


Victoria_RegenによるPixabayからの画像 


【今週の読書】

 




0 件のコメント:

コメントを投稿