2011年8月30日火曜日

示談交渉

親父が交通事故に遭ったのは、もう2年前になる。
横断歩道を渡っていたら、自動車が突っ込んできたのである。
もちろん、相手が100%悪いと認定された。
膝の靭帯を痛め、通院で治らず結局手術した。
1年後のボルトを取り除く手術とリハビリを経て、治療は終わった。

事故直後から加害者とは別に、保険会社が何くれとなく連絡をよこすようになった。
相手の保険会社である。治療費は一時的にこちらで立て替えるものの、ほぼ全額負担してもらった。
自分達が出す費用を減らす為でもあるのだが、かいがいしく手続きをしてくれた。
調子がいいなと感じるところもあり、また理屈に合わず腹立たしい事もあり、親父はそんな愚痴を時々もらしていた。

治療がすべて終わった段階で、いよいよ損害賠償の和解ということになった。
父は「いくら提示してくるのだろう」と楽しみにする一方で、不安も抱いていた。
何分、温和で穏やかな性格の父は、相手と「切った張った」の交渉は苦手としている。
いいように言いくるめられてしまうのではないか、と心配もしていた。
保険会社の担当者もプロだし、私も何度か話をしたが、穏やかな話振りでとても父が対抗できる相手ではないと思った。そこでもっぱら交渉は私が引き受ける事にした。

交渉事は事前準備が肝心。
そこであらかじめ、「相場」を調べる事にした。
何せこちらも初めての経験。
一体どれくらいが相場なのか見当もつかない。
金額の提示を受けても、それが多いのか少ないのかもわからない。
事前に父とも話したのだが、「欲張るつもりはないが、体よくあしらわれるのは嫌」という事だった。当然と言えば当然の考え方だが、それも相場がわからないとどうにもならない。

ネットで調べたが、はっきりとはわからない。
有料査定サービスはあるが、そんなのもったいない。
損保会社に勤める友人に問い合わせたが、担当職務外なのか参考にならない。
父の知人の保険会社の人も、「とにかく最初の提示額でOKしてはダメ」というだけだった。
なんとなく「自賠責基準」「任意保険基準」「地裁基準」というのがあるというのがわかった程度だった。

そしていよいよ送られてきた和解案には、和解金として75万円の数字が。
知人の体験談から100万円以上は固いと期待していた父はがっかり。
さっそく電話交渉に臨んだが、相手は当然の事ながらそれが如何に妥当かと言う説明に終始。
一通り聞いた後、「でもこちらは後遺症も出ていますしね」と切り返した。
「なら後遺症認定を申請しましょう」と相手も提案してきた。

まあ相手もそれで出しやすくなるなら、とこちらも応じ、医師の診断書をもらい、あとは状況説明書を書いた。曰く、「正座を3分以上できない」「階段の上り下りに不安感」「(しゃがむ行為が難しく)和式便器が使えない」などである。私も膝の靭帯を切った事があるから、そこは自分の体験をベースにすらすらと書き連ねた。

それが良かったのか、後遺症が認定され75万円が上乗せされ、和解金は2倍となった。
父は満足して刀を鞘に納めた。
それにしても、当初の和解金はいったい相場的にはどうだったのか?
結局、そこの部分はそのままで、相手の担当者は自分の主張を通したわけである。
交渉事では、最初は低い球を投げるというセオリーに従えば、もっと上乗せできる余地はあったわけである。自分のことだったら、私も良い経験だと思ってもっと粘っていただろう。

そこから先に行くと、弁護士会のあっせんなどもあるようだし、こういうところでは第3者的な立場での意見を出してくれるだろうから、その時こそ“妥当な相場”がわかったと思う。
父からすれば、交渉が長引くのはいい気持ちがしないという事もあり、「もうそれで十分」となったわけであるが、まあそれはそれで仕方がない。
根拠はともかく、金額的には満足したので、それで十分と言うわけである。
それにしても、他の人たちはどうしているのだろう。

適度な相場が開示されていれば、迷いも少ないと思うのだが、それは難しい事なのだろうか。
保険会社からすれば、「少しでも安く済ませたい」となるのは当然であり、プロが交渉に乗り出してくる。迎え撃つのは素人だから、不利な勝負のような気がする。
今回は、「裁判まではやらないけど、あっせんまでは行ってもいい」と事前に決めて臨んだのだが、そうした制度を調べておけない人は困る気もする。
まあ素人なりに、案外感情論で押しまくって、「泣く子には勝てない」理論で勝負しているのかもしれない。

一度経験すれば、二度目はたやすい。
「今度は私がそうなった時には、手ごわい相手になるぞ」と思うも、よく考えてみればそうならないに越した事はない。やっぱり「いい経験」で終わるのが一番だと思うのである・・・


【本日の読書】
「反対尋問の手法に学ぶ嘘を見破る質問力」荘司雅彦
「タッポーチョ太平洋の奇跡」ドン・ジョーンズ
   



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