2025年5月1日木曜日

あぁ、初任給!

 世間では物価が上昇し、就職戦線では初任給が話題になっている。大手企業の中には「初任給40万円超」を謳う企業が登場し、高給ランキングには30万円超の企業がずらりと並ぶ。中小企業の我々はそれを遠くで呆然と眺めているだけである。それだけの初任給を払えるという事は、それだけ儲けているという事であるが、それだけ儲けられていない我々としては忸怩たる思いがする。日本政府が日本経済の復活のために「デフレ脱却」を唱えていたが、実は私はそれを疑惑の目で見ていた。デフレ脱却が果たして日本経済のためになるのか、と。そして仮に日本経済のためになるとして、それが個人の生活に好影響を与えるのか、と。

 だいぶ物価も上昇してデフレ脱却の言葉は聞かなくなっている。その結果はというと、日本経済にはいいのかもしれないが、個人的には昼食代が上がっていたりして支出は増えている。もちろん、給料は増えていないのでこずかいも増えていない。妻に秘密の収入を増やして何とか凌いでいるが、事前に予想していた通りデフレ脱却は悪い方向に動いている。それは会社にしても同様で、物価の上昇を売上に転嫁できていない。なかなか売上は伸びず、一方で給料は据え置きというわけにはいかず、もちろん初任給30万円なんて雲の上のお花畑の話である。

 それでも競合他社は水準を上げてきている。当社も新卒採用の場でここのところ苦戦しており、それは初任給の水準だけの問題だとは思わないが、それも大事な要素であると考え、見直しに着手することにした。しかし、初任給をいじれば既存社員の給与にも影響を与える。新入社員より2年目の社員の方が給料が安いという事態になってもまずい。それが連鎖的につながれば、最大で全社員の給料を見直す事態につながる。そのインパクトは会社の決算にも影響を与えるので、それをも加味しなければならない。なかなか簡単には判断できないものである。

 そもそも社員に対する給与は会社の決算から見ると「経費」である。我が社の場合、エンジニアに対する給与は「売上原価」に計上しており、役員報酬、総務、営業等の社員の給与については販管費に計上している。ともに「経費」であることは変わらない。「売上-経費=利益」であり、経費が増えれば利益が減る。当社は非上場なので株主の意向を気にする必要はないが、銀行からお金を借りる必要があるので利益水準は維持しないといけない。当社には不動産等の担保に提出できるものがないので、銀行からの借り入れには利益を出す事が信用につながる。利益が減れば死活問題になる。

 会社が上げた売上を経費に配分するか利益に配分するかは難しいところ。社員の給料、福利厚生を手厚くすれば利益は薄くなる。減らせば利益が厚くなる。我が社は創業者の考えによりなるべく社員に還元するという方針でやって来ている。そのため創業から50年を迎える割に蓄積された利益は少ない。自社ビルの一つもあっておかしくないと思うが、そこまでのものはない。なかなか難しい問題である。望ましいのは売上を上げ続けて高い給料を払いつつ利益も蓄積する事。だが、理想は遠い。

 37年前、社会人デビューした私の初任給は確か125,000円であった。時代が違うのでそれだけでは何とも言えないが、遊びたい盛りの若者には厳しい給料であった。しかしながら、寮費が3万円程度(水道光熱費込み)であったので、手取りのこずかいとしては、(妻に秘密の収入がなければ)今よりも多かったと思う。独身と家族持ちとでは自ずと違うが、なんだか複雑な気分がする。初任給で30万円もらえる今の若者は、ほとんどがまだ独身だろうからかなり贅沢ができるように思う。

 我が社の新入社員の初任給は、高専卒と大卒とで違いがあるが、20万円前後である。昨年、大卒で公務員になった娘が20万円ちょっとなのでほぼ同じである。昼休みにカップ麺を食べている我が社の若手社員を見ると、もう少し収益を上げて給料も上げてあげたいと思う。「中小企業だから(払えない)」ではなく、「中小企業でも(払える)」を目指したいと思う。一朝一夕にいくことではないが、そういう気概を持って仕事をしたいと思うのである・・・


keeniconによるPixabayからの画像

【本日の読書】

 いま世界の哲学者が考えていること - 岡本 裕一朗  シャーロック ホームズの凱旋 森見登美彦 単行本







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