2024年3月7日木曜日

自分を主語にする

 我が社にいる社員の話。
もう年配の方であるが、仕事については常に「予防線」を張りながらやっている。先日も幹部宛の資料配布をお願いしたのであるが、わざわざ「〇〇の指示により配布させていただきます」と断って(メール)配信していた。「〇〇」は私なのであるが、おそらく配布メンバーの選定について何か一言言われるのではないかと警戒したのであろう。その他にも「私は聞いていませんのですが・・・」というセリフもやたらと耳にする。「聞かされていないのでわからないのは当然」と言いたいのであろう。

 それ以前にも、別の方より「あいつはダメだ」という批判を聞いた。何でもその人が本来やるべきではないかと思われる仕事をやっておらず、それを指摘(「なんでやっていないんだ」)した時、「指示されていませんので」と答えたらしい。「やっていないのは指示されていないからで、したがって非があるのは指示しなかった人」と言いたいのであろう。私がその場にいたら、「お前は指示されなければ動けないロボットか」と言っていただろう。答えとしては実に嘆かわしい答えである。自分は指示待ち族であると宣言しているようなものである。

 おそらく、ではあるが、ご本人は怒られたくないという気持ちが強いのであろう。だから一々自分の行動に予防線を張る。「自分の責任ではありません」という事を明確にして行動している。それはそれで理解はできる。誰しも怒られるのは嫌であろう。できうることなら怒られずに済ませたいと思うだろう。しかし、怒られるという事をリスクと考えれば、リスクを取らずして何を得られるだろうかという話になる。当然ながら、リスクを取らない安全行動から得られるリターンは少ない。ご本人の精神の安定を重視するならそれが一番かもしれない。

 しかしながら、リスクを取らないことによって失うものは大きい。何より自身に対する信頼は得られないだろう。今も取引銀行の担当者が訪ねてくる。例えば融資の話をした時、「上の者に相談します」と回答する人が多い。私は銀行員時代にこういう場合、「持ち帰って検討します」と回答していた。その場で即答しなくても無理はない。もちろん、自身に融資の決裁権はないので「できる、できない」の回答を勝手にはできない。だが、「上の者に相談します」と「持ち帰って検討します」とでは大きく違う。前者は主語が上司であり、後者は自分である。相手もそれなら上司と話をしようと思うだろう。

 主語を自分に置くというのは大事な事。担当であるにも関わらず、「上司と話をさせろ」と言われるのは、「お前では役に立たない」と言われるのと同意語であり、屈辱的である。そうさせないようにするためには常に自分を主語に置かないといけない。「『自分が』持ち帰って検討する」と言えば、相手は常に自分と話をする。上司には交渉を任されるであろうし、顧客には銀行代表として話をしてもらえる。その感覚はいまでもあるので、「上の者に相談します」という担当者については、残念だなと今でも思うのである。何か相談がある時は、上司を交えて話をさせていただくことになる。

 先の社員についても、「なんでやっていないんだ」と言われた時、「すみませんでした」と言えていたら対応は違っていただろう。その場で怒られたとしても、その場で終わる。相手も頭を下げられたらそれ以上は言えない。しかし、「指示されていませんので」と答えれば、怒りに火を注ぐ。その火は燃え続け、事あるごとに再燃し批判は続く。「聞いていません」も、「確認しておきます」と答えておけばよい。一々「〇〇の指示で」などと断らずに、自分の判断であるかのように配布すればいいのである。もしもそこで何か言われたら、自分の判断根拠を示して答えればよい。そのためには指示されたことの意味をあわせて考えないといけないことでもある。そういうスタンスでいれば、格段に力はつくであろう。

 主語を自分にするという事はしんどい事でもある。その行動の結果を自分で取らないといけない事だからである。当然、結果によっては怒られる事になる。しかし、怒られるというリスクはあるものの、代わりに「信頼」を得られる。「あいつに話をしよう」と思ってもらえる。主語がいつも他者であると、大事な仕事は回ってこない。いつしか片隅に追いやられてしまうことになる。そして常に指示されて動く立場に甘んじる事になる。もちろん、そういう働き方が楽でいいという人であればそれでいいだろう。ただ、もちろん高い給料はもらえないし、いずれ年下の上司の下で働くことになるだろう。先の年配社員もそうなっている。

 人の生き方についてとやかく言うつもりはないが、私は今までもそうであったように、これからも自分を主語にして行動していきたいと思うのである・・・

Khoa LêによるPixabayからの画像

【本日の読書】

イーロン・マスク 下 (文春e-book) - ウォルター・アイザックソン, 井口 耕二  まいまいつぶろ (幻冬舎単行本) - 村木嵐




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