2021年2月4日木曜日

梨泰院クラス

 Netflixで配信されている『梨泰院クラス』がなかなか面白い。昨年のコロナ禍での自粛を受けて人気が出たということをなんとなく知っていたのであるが、「韓流ドラマ」に抵抗があって見送ってきていたのである。しかしながら、あまりにもオススメされるので、「人の勧めるものは素直に試す」という信念に基づいて観始めた次第。ところがこれが面白い。「韓流ドラマ」に対するイメージを変えないといけないと思うくらいである。

 ストーリーは、正義感が強く、曲がったことが許せない主人公のパク・セロイの復讐物語。始まりは高校時代。転校したその日にいじめを目撃し、いじめていた男を殴るのだが、殴った相手が悪かった。飲食業界のトップの大企業「長家(チャンガ)」会長の息子で、校長も教師も逆らうことができない。会長はセロイに土下座をすれば穏便に事を済ませると提案するが、セロイは拒否し退学になってしまう。さらに長家で働いていた父も辞職を余儀なくされ、さらにその後ある事件が起こり、父は亡くなりセロイは会長とその息子に復讐を誓うことになる。

 セロイは飲食業界でのし上がる計画を立て、刑務所から出所後、過酷な肉体労働で金を溜め、どうやら韓国の六本木とも言える繁華街「梨泰院」で自分の店「タンバム」を出店する。復讐に燃えると言ってもドラマを通じて流れる空気は復讐という感じがしない。「タンバム」も苦戦するが、それを支える仲間たちとの交流に心が温まる。セロイを慕い、「タンバム」を人気店に押し上げるマネージャーのイソは、徹底した合理主義。長家の会長と相通じるものがあるが、この合理主義とセロイの考え方は対極的。

 イソはタンバム苦戦の原因はまずい料理だとし、料理担当を辞めさせろとセロイに迫る。全スタッフとの話し合いの中、セロイは料理担当のヒョニに給料を2ヶ月分渡す。てっきり手切れ金かと思いきや、「この店が好きなら2倍努力しろ、お前ならできる」と告げる。セロイの行動は、何より仲間重視。利益の前に仲間を大事にする。長家の妨害で人通りの寂しい通りに移転を余儀なくされるが、近隣の店のテコ入れを手伝い、通り全体に客を呼び込もうと考える。

 また、刑務所に収監されている時から憎き会長の自伝を読み、その優れたるところは素直に学び取ろうとする。また、長家の腹違いの次男もスタッフとして店に受け入れる。トランスジェンダーがいると店のイメージに良くないという意見も気にしない。とにかく年齢、性別、国籍にかかわらず広く公平に接する。韓国人がみんなセロイのようであったら、日韓関係もぐっと良くなるだろうと思ってしまう。日頃、「経済合理性」という足枷を課せられているビジネスマンが観たら、こんなふうに働きたいと思わされるシーンが溢れている。

 セロイにはオ・スアというヒロインがいる。家庭の経済的な事情から長家の世話になり、やがて長家でその手腕を発揮していくが、セロイは仇の会社で働くスアに思いを寄せつつも、その立場を理解し自分と敵対する行動でも受け入れる。こうしたドラマのヨコ糸も巧みだと思う。憎き会長も屋台1つから身を起こした立身出世の人物であり、「バカ息子」に対する対応を間違えなければ、復讐劇の敵役にならずに済んでいただろう。自分だったらどうするだろうかと考えて観ていると、また別の楽しさがある。

 ビジネスには経済合理性が必要であるが、人間関係に冷たい経済合理性は持ち込みたくない。温かい人間関係の中で理想的に商売ができればそれが一番であるが、それでは利益が上げられないのがビジネスの世界。プロ野球でもドラフトで獲得した選手を育ててチームを組めればいいが、現実的には多額の報酬を払って助っ人やFAで選手を補強する。現実には料理の腕が上がるまで待てずに料理人を他からスカウトしてくるだろう。何より利益を上げることが優先であり、その上での和気藹々だろう。

 さらに力関係がこれに加わる。第1話でも、頭を下げれば穏便に済むものを自らの信念を貫いたことでセロイは退学となり、父も職を失う。現実的には我々は唇を噛み締めながら渋々頭を下げる方を選ぶものであり、心の中の声は黙殺するだろう。あえて信念を曲げずに、辞表を出すという行為は普通は難しい。セロイの父も父一人息子一人の家族だったからできたことで、幼子を抱えていたら果たして同じ行動を取れたであろうか。実際、それで事件担当の刑事は真実を闇に葬っている。

 所詮、ドラマの世界の話で現実にはありえないと言ってしまえばその通りであるが、しかし、観ていて心惹かれるのは、やはり自分もセロイのように行動したいと思うからかもしれない。経済合理性なんかに縛られて、仕方がないんだと自らを慰めるような行動はとりたくはない。そう思うと、現実の世界でもどこまで理想に近い行動が取れるだろうかと考えてみたいと思うのである。

 ドラマは全16話で、現在10話まで見終わったところ。本筋の復讐劇でも激しい攻防戦は観ていて手に汗握る感じがする。何より、復讐を成し遂げる過程は蜜の味。いろいろな角度から楽しめるところがあり、だからこそ人気も出たのであろう。この後、後半戦。どんな展開になるのか。楽しみながら鑑賞したいと思うのである・・・



【今週の読書】
  



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