2021年2月28日日曜日

「知ってるワイフ」に見る結婚の理想と現実(その2)

 映画やドラマを観ていると、そこには現実によくある出来事が描かれていたりする。それが身につまされるものだったりすると、他人事とは思えず主人公に感情移入してしまったりする。韓国版ドラマの「知ってるワイフ」を観始めたが、そんな身につまされる思いに駆られることしばしばである。

 ある日、不思議な料金所を通過したジュヒョク。折しも地球に接近しているという天体のせいであろうか、気がつけば学生時代の自分に戻っている。未来を知っているジュヒョクは、妻となるウジンとの出会いを回避し、憧れのマドンナ・ヘウォンに接近する。気持ちを知っているだけに大胆に行動できる。そして目が覚めた時、現代のジュヒョクのベッドの横で寝ている妻はヘウォンになっている。狂喜乱舞するジュヒョク。

 もしも、現実に自分の身に起こったとしたら、これほどのことはない。もしも神様がいて同じ奇跡を起こしてくれるのなら、差し出せるものは何でも差し出したいと思う。おまけにヘウォンは美人なだけでなく、父親が大企業の社長であり、そのおかげで豪邸に暮らし、高級車を愛車としている。まさに劇的な変化である。ところが、次第に隠れた現実にジュヒョクは気がついていく。

 喜びに溢れてスタートしたジュヒョクの新しい生活は妻の実家が中心。その週末も妻の実家に行くことになっている。一方で、ジュヒョクには母親から「どうしているか」と電話がかかってくる。ジュヒョクの実家にはほとんど顔を出していないらしく、ジュヒョクが実家に行きたいとヘウォンに告げるも、ヘウォンはあまり良い顔をしない。嫁姑戦争こそ起こっていないが、嫁は姑を本能的に避けたがるものなのであろうか。

 決定的なのは、突然ジュヒョクの両親が上京してきたシーン。ジュヒョクは歓迎して家に泊めようとするが、ヘウォンは笑顔でホテルのスイートルームを予約する。豪邸だから寝る部屋は十分にあるはずだが、朝食の用意とかが大変だと考えたヘウォンは、ホテルのスイートルームを取ろうとする。確かにホテルのスイートルームの方がサービスは良い。しかし、当然ながらジュヒョクもジュヒョクの両親も求めているのはそんなものではない。

 男の目から見ると、ヘウォンの態度はひどいものにしか見えない。ヘウォンも自分の両親だったらホテルのスイートルームを取るようなことはしないだろう。結婚すれば相手の両親に対しては、自分の両親と同等に接するものだと私は思うが、ヘウォンは(私の妻もだが)そうは思わないらしい。結局、気兼ねした両親はジュヒョクの勧めを断って帰って行く。その後ろ姿とそれを見送るジュヒョクを観ていたら、涙が溢れる思いがした。

 実は、私も結婚して以来、両親を家に泊めたことはただの一度もない。同じ都内に住んでいるということもあるだろうが、それだけではない。私の妻もヘウォンと同様、露骨には態度に表さなくても私の両親に対しては距離を置きたがる。来るなら来るで準備が必要なので前もって予告しないといけないし(予告すれば露骨に機嫌が悪くなる)、ましてや「近くまで来たから」なんて突然やってきた日には後で何を言われるかわからない。決してヘウォンの態度がドラマ用にデフォルメされたものではないのである。

 もちろん、妻には妻の理屈があるだろう。男は女と違って、家の中が散らかっていても気にはならないが、女は(特に義理の両親に対しては)そうはいかないと感じるのだろう。ダメな嫁と思われるのを避けたいと思うのかもしれない。それはそれでわからなくもないが、その代わりに「冷たい嫁」と思われることはなんとも思わないようなのが不思議である。何にも増して「もてなす心」があれば、みんながハッピーになれると思うのにヘウォンも私の妻もそんな思いには至らないようである。

 「娘は嫁にやるもの」というのは過去の話。今や息子の家庭は妻を中心に動き、結婚して住むところも妻の実家の近くという例が少なくはない。さらに男はマメに実家に顔を出すなんてしないから、親からすれば「婿に取られたようなもの」となるだろう。孫が生まれても入り浸るのは妻の実家。夫の実家は蚊帳の外になる。我が家の嫁姑戦争は38度線状態。自分の結婚は失敗だったと断言できる所以である。

 理想の妻との結婚生活を手に入れたジュヒョク。しかし、あれほど歓喜した理想の結婚にこうした予想外の苦悩があるとは思いもしない。直面して初めて気づく現実である。そしてもう1つ気づくのは、ウジンとの間に生まれた我が子と会えないこと。当然ながら、歴史が変われば現実も変わる。ウジンとの間に生まれた子供はヘウォンとの生活には存在しない。結婚生活に失敗したと思っているが、では私がもし過去に戻って結婚をやり直せるとしたら本当にやり直すだろうかとなるとわからない。そんなチャンスが巡ってきたとしても、悩むとしたら唯一の点が今の子供たちと会えなくなることである。おいそれとは戻れない。

 ドラマは全16話中、第4話まで観たところであるが、ここまででいろいろと考えさせられてしまった。とても無邪気にドラマを楽しめないのは、そんなことを考えてしまうからである。これから先、ジュヒョクにはどんな運命が待っているのだろうか。どんな展開であろうと、ジュヒョクには幸せになってもらいたいと、我が身と重ね合わせながらつくづく思うのである・・・



【今週の読書】
  



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