2018年9月12日水曜日

部下と働く


やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、
ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
山本五十六

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 初めて部下を持ったのは、銀行員時代のこと。まだ30代になりたての頃だった。初めての部下は男女1名ずつの小さな融資課だった。私は勇んで臨んだものの、男の方がなかなかの問題児で、忙しい環境下で常に不平不満を呟いていた。その気持ちはわからなくもないが、現実に目の前に山積している仕事はこなさないといけない。しかし、彼は「こんなにできるわけがない」というスタンスで仕事も遅く、問題行動も多かった。

結局、新米上司の私には手に負えず、業を煮やした当時の支店長が、優秀な男を引っ張ってきて交代させてしまった。彼は総合職としては一段劣るとみなされる預金課に回され、泣いて私に何とかならないかと訴えてきたが、私には「これから頑張れ」としか言いようがなかった。今でならもっと違うやり方で接することができたと思うが、実に残念な思い出になってしまっている。
 
 それからかれこれ時は流れ、私も経験を積んでそれなりに部下の指導もできるようになった。今の会社では私が来てから社員の働き方が変わっている。特に直属の部下は仕事量が倍増しているといってもいい。と言ってもきちんと定時に帰っているから無理な仕事量というわけではない。自然とモチベーションを上げてもらいながら増やしてもらったのである。
 
 何か特別なことをしたわけではないが、それまでの人たちとやり方が違うのだけは確かである。やったことと言えば、それまではどちらかというと「放任」だったのをいわゆる「協働」に変えたと言える。たとえば営業担当者の場合、それまではまずは最初に上司が一緒に営業先をまわるが、あとは「やってね」で終わっていたものを「今日どこに行く?」から始まり、「こんなことを聞いてきて」とか帰って来た時には「どうだった」と必ず聞くようにしたのである。さらに活動報告も作らせて社長まで回覧するようにした。その働き振りを社長も見ていると分かるようにしたのである。
 
 たったこれだけだが、営業担当者はそれから訪問件数が倍々増したのである。思うに人は誰でも「承認欲求」というものを持っている。自分が役に立っているとわかれば誰でも嬉しいものだし、やる気も出る。自分がそうであったから猶更その気持ちはわかる。「自分だったらどこに行くだろう」と考えれば、担当者と訪問先を決めるにも説得力のある意見が言える。「こんな事を聞いてきてほしい」と考えればそれを担当者に伝えられる。担当者も話のネタができる。要は、実際には同行しなくとも、自分も一緒に営業活動をしているのである。
 
 別の担当者には、内装デザインの仕事をしてもらうことにした。それまで社内で誰もやっていないし、本人も経験がない。外注しようと思っていたが、コストもかかるし、で取りあえずやらせてみたら意外にできたので、以来任せている。こちらもその都度イメージを伝えるし(それはかなり頻繁に否定される)、相談されれば自分なりの意見を答える。本人も初めてで自信などないが、やっていくうちに社内では自分が一番適任とわかってきて(それは私のアイディアを否定していくうちに身についたとも言える)、その上自分の意見が採用されて形となり、そのうち社内でデザイン担当と認知されるに至りモチベーションが高まっていったようである。
 
 およそ人に動いてもらおうと思ったら、口先で命じるだけではダメだろうと思う。相手の立場に立ちつつ、いかにやる気をもってやってもらうか。大概の人は真面目だから、きちんと道を示して寄り添う形で進めればそれなりにやってくれると思う。動いてくれないとしたら、それは上司のやり方が悪いのではないかと思う。かつての私のように。今の自分があの頃に戻れたら、いったい彼にどんな指導ができるだろうかと時折思うが、その都度彼には申し訳なく思う。

ラグビーでも1人エースがいれば試合に勝てるというものではない。エースが活きるためには、いかに周りのチームメイトがしっかりと働くかが大事で、そうでなければエースが相手チームに徹底マークされたらそれまでである。仕事も同様で、上司1人で仕事ができるわけではない。チームのメンバーがいかに働くかこそが、チームのパフォーマンスを左右する。メンバーがいかに気持ちよく働けるかが、上司が考えるべきことであろう。

「明るく、楽しく、一生懸命に働く」
このモットーを日々実践していくために、上司は人一倍エネルギーを使わないといけないと思うのである・・・





【本日の読書】
 
  




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