2018年5月20日日曜日

なんでも都合よく

先日、『朝鮮出身の帳場人が見た慰安婦の真実』という本を読んだ。「従軍慰安婦問題」は日頃から関心のあるテーマだけに、こういうタイトルを目にすれば手が出るというもの。内容については、別にまとめたブログに譲るとして、個人的にいくつか興味を惹かれたもののうちの1つは、元ネタとなった日記が公開されたとき、韓国では「日本軍の強制連行があったことの決定的な証拠だ」とされたと言うことである。内容的にはそんなことはないらしいが、見る人が見ればそうなるのだろう。

見る人が見れば、と言うよりも人は「見たいものだけを見る」ものだと思う。格言でも全く正反対のものがあるが、自分にとって都合のいい方を引用することはよくあることである。そんな「都合の良い解釈」は冷静に客観的に見ていると面白いくらいである。童話に「すっぱいブドウ」という話があったが、あれも都合の良い解釈である。そんな事例が、私の身近でも出ている。

実は、私の実家では数年前から道路拡張計画がスタートし、周辺とともに立ち退きにさらされている。齢80を超える両親は、気持ち的には立ち退きなんてしたくない。引っ越しは面倒だし、近所の知り合いとは離れ離れになるし、飼い猫はやたらなところでは飼えないし、今更別の土地で1から人間関係をスタートするのはもうしんどい。というわけで、ぐすぐすやっている。そんな両親が次の引越し先について、先日嬉しそうに相談があった。

それは、近所に空き地があって、そこを大家さんに借りて家を建てたらいいのではないかというもの。歩いて数十メートルの距離なだけに、引っ越しに伴う問題点がほとんど解消される。飼い猫のことも案じる必要もない。良さそうだと考えた私は、「すぐに大家さんに打診したら」と提案した。母も女同士仲がいいからまずは奥さんに気軽に聞いてみると言うことになった。ゴールデンウィーク前のことである。

そして一昨日、実家に行ってどうなったか確認したところ、「まだ話していない」と言うことであった。「ああ、またか」と私は思った。こういう「決めても動かない」ことはもう年中行事なのである。母に問えば、「こういうことはやはりお父さんが行くべき」と言うし、責任を振られた父は、建物にいくらかかるか知り合いの工務店から返事がこないし(その工務店からは「規模はどのくらいか」と聞かれて止まったまま)、そもそも道路付が悪いから建築にも余計な金がかかるのではないかとか、不都合な理由を挙げる。「これはいい」と嬉しそうに語っていたのはほんの2週間ほど前のことである。

もちろん、それから周りの状況は何1つ変わっていない。建築コストだって我が家を参考にすればいいと金額を教えてあげたし、不都合は何1つない。変わったのは両親の捉え方だけ。結局、動くのは面倒という思いがあるから、都合の良い理屈を並べ立てて「やらない言い訳」にしているに過ぎない。このあたりの心境が、私には痛いほどよくわかる。もしも私が実家で両親と同居していたら、話のあったすぐ次の日には母を伴って大家さんのところに話をしに行っていただろう。条件が合いそうであれば、建築士に話をして進めていたと思う。そこはビジネスで培ったスピード感が違う。

何かをやろうと思ったら、「できない理由」を探したらいくらでも出てくる。それこそできない理由を探していたら、「今日は天気が悪いからやめておこう」となるだろう。その昔、まだ携帯電話なんてなかった頃、女の子を誘おうと思ってドキドキしながら電話をしたことがある。夜7時になったら電話しようと決めていたのに、いざ7時になると「ひょっとしたら今夕食の最中で迷惑かもしれない」と思って1時間ずらし、1時間後には「今風呂かもしれない」と思っている。そしてさらに1時間経てば「夜遅い時間は迷惑だろう」と考え、結局電話できなかったりする。まだ純情だった頃の思い出であるが、今なら思った瞬間に電話をしているだろう。

自分を納得させるには、都合の良い理由が目に入ればすぐに採用する。自分の日頃の意見にあう意見が出てくれば「それ見たことか」と飛びつく。だから書かれてもいない強制連行の証拠が読み取れてしまうし、実に面白いものだと思う。そういう自分も冷静なフリをして「強制連行はなかった」という自分の考えに近いとこの本の内容を勝手に解釈しているだけなのかもしれない。客観的になるというのは、実はかなり難しいのかもしれないと思う。

 主観からはどうしたって逃れられることはできない。都合の良い解釈にとらわれないためには何が必要かと考えてみると、それは「柔軟性」に尽きるのかもしれない。常に「相手の意見の方が真実かもしれない」と考える柔軟性である。「強制連行があった決定的な証拠だ」という意見をただ笑うだけではなく、それが真実かもしれないと考えられる柔軟性。そんな柔軟性を意識にとどめておいて、物事を判断するようにしたいと思うのである・・・






【今週の読書】
 
     

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