2018年5月16日水曜日

歴史は繰り返す


資料改ざん、行員が認識 スルガ銀が発表「営業が圧力」

 シェアハウス投資の融資で資料改ざんなどの不正が相次いだ問題で、地方銀行のスルガ銀行(静岡県沼津市)は15日、多くの行員が不正を認識していた可能性があると発表した。業績拡大のため不動産業者と一体で融資にのめり込み、内部統制も機能しなかった。今後、第三者委員会(委員長=中村直人弁護士)を設けて詳細を調べる。金融庁も検査に入っており、厳しい行政処分は必至だ。(朝日新聞デジタル)
************************************************************************************

先ごろ経営破綻した不動産業者「スマートデイズ」であるが、その実態が明らかになるにつれ余波が広がっている。そしてそれが今は融資元のスルガ銀行に向かっている。なんでもスマートデイズの案件に際し、不正融資を実行していたのだという。記事を読むと、通帳コピーを改ざんし自己資金があるかのように装っていたり、売買契約書での物件価格の水増しがあったらしい。これをまさか直接やっていたとは思えないが、「見て見ぬ振り」「気づかない振り」はしていたのかもしれない。

銀行が融資をする場合は、当然審査がある。その審査は、「借主が借りたお金を返せるか」という観点からなされるのだが、「自己資金」はその大事な要素である。不動産は大抵、売値に販売側の利益が入っている。したがって担保に取る時は78割を目安に融資をする。残りが自己資金である。何かあって売らざるを得なくなった時、買値より安くなるのを見越して自己資金を用意してもらうのである。なければ審査は通らない。そのためあるように装ったのであろう(他行の残高は調べようがないから通帳コピーをもらうしかないが、コピーは偽造できる)

売買契約書の偽造も自己資金がない場合はよくやる手口である。私もかつて銀行員時代に窓口に持ち込まれた売買契約書の偽造を見破ったことがある。また、まだ家を買う前に妻とオープンハウスを見に行った時、「自己資金がまだ溜まっていない」と言って断ろうとしたら、販売担当の営業マンに秘策を告げられたこともある。すなわち、「売買契約書のコピーをとって金額を改ざんして銀行に提出すれば大丈夫ですよ」というものである。「銀行にバレるでしょう」と聞いたら、「大丈夫です、1億の物件を2億と言ったらバレますが、5,000万円を6,000万円というくらいならバレません」とのたまわったのである。→「インセンティブの功罪

かくして不動産会社というものは、信用ならないところが多い(我が社は別だ!)が、それもこれも「インセンティブの功罪」と言える。それはスマートデイズだけでなく、ノルマに追われる銀行員も同じである。ニュースによれば、スルガ銀行では増益へのプレッシャーが強かったという。東芝の不正会計問題も結局、増益へのプレッシャーだったが、同じ構造だろう。スルガ銀行では、営業幹部が審査担当を恫喝した事例もあったというから、業績を上げる部署である営業が錦の御旗を得てしまったのだろう。かつての帝国陸軍のように。

一番割りを食ったのは、何よりスルガ銀行の融資を受け、スマートデイズのシェアハウスを買った人たちだ。「銀行が審査OKを出すなら大丈夫なんだろう」という幻想は、まだまだ世の中にあるようで、深く考えず(というより与えられた狭い情報の範囲内で判断して)、購入してしまったのだろう。当然だが、銀行は万が一のことを考える。返済できなくなれば、〇〇の資産がある、一部上場企業に勤めていて収入が多い等々身ぐるみを剥ぐことを想定してOKしているのである。銀行がOKしている理由を知れば背筋が寒くなるだろう。

私もバブル期に銀行に入行した身として、業績至上主義の功罪はよくわかる。研修では、「融資は物件価格の7割」と教えられていたのに、現場に行けば、「時価まで大丈夫なんだ」と稟議(審査書類)の書き方を教わった。「融資係の仕事は難しい案件をいかに通すかだ」と教えられた。「この案件は無理じゃないですか」と営業担当者に言えるようになったのは、バブルが崩壊した後だった。国でも三権分立の考え方があるが、銀行も審査部門が独立して強い力を持っていないと、いつまで経っても同じことを繰り返すだろう。

入行2年目に転勤して担当したあるお婆さんが忘れられない。その時点で銀行は「相続対策」で10億円の融資をしていた。営業担当者はさぞかしボーナスをたくさんもらったのだろう。元金は10年据え置き条件で、満室でも利息の支払いが目一杯。将来的に家賃は下がるだろうし、修繕費もかかってくる。空室も出るだろうし、その状態で元金返済が始まったらどうなるのだろうと、暗い気持ちになった。そんな実情を多分詳しく知らないそのお婆さんは、いつも私が訪問するたびに温かく迎えてくれた。その後どうなったのか、私に知る勇気はない。

銀行と不動産業とは隣り合わせである。うまくタッグを組めば人を幸せにできると思うが、そこに欲が絡めば最悪の組み合わせとなる。今は立場を変えて不動産業者となったが、取引金融機関とは良いお付き合いをさせていただいている。これからも常に清く正しくあって、いい関係を続けて行きたいと考えている。バカな事例を身近で見聞きしてきた者として、襟を正して背筋を伸ばして商売していきたいと思うのである・・・




【今週の読書】

0 件のコメント:

コメントを投稿