2015年9月6日日曜日

美学

サラリーマンとして長いこと通勤しているが、これまではそんなに苦にもならなかったので、電車に乗った時にあまり座ることなど考えてこなかった。
しかし、転職して通勤時間が過去最長の1時間20分となり、ちょっとしんどいこともあって、最近「座る工夫」をしている。
と言っても、「席取り合戦」のようなみっともないことはしたくない。
あくまでも「スマートに座る工夫」である。

狙いは山手線。
30分乗るので、やっぱりここで座っておきたい。
乗るのはターミナル駅の池袋であるが、ここで座るには一本見送るという作戦もあるが、その5分がもったいないのでそれはしない。
次のターミナル駅の新宿から座ることを狙う。
方法は簡単で、新宿で降りそうな人の前にさり気なく立つのである。

と言っても、誰がどこで降りるかなどわからないから、あくまでも観察と推理である。
山手線は一周しているので、乗る距離も限られている。
池袋から品川までは約半周。
つまり、それ以上先に行く人は、反対側に乗るはず。
そこから推理すれば、到着した電車に乗っていた人はまず候補に挙がる。

次に観察の結果、ラフな格好をした人は新宿で乗り換える確率が高いとわかっている。
さらに新宿で降りるとわかっている私立の制服に身を包んだ小学生だ。
電車に乗り込んだ短い時間にそれらを見極めるのである。
これで大体確率8割といったところだ。

先週のこと、いつものようにドアが開くと、降りる人を待つのももどかしく車内に殺到していくおじさんたちを横目で見ながら、いつもの小学生の前に立つ。
鞄を棚に上げたところで、突然横からおじさんが体を押し付けてきた。
謝るどころか、さらに体をぐいぐい押し付けてきて、私をどかそうとする。
何だと思ったが、その狙いはすぐにわかった。

見ればそれはこの電車で顔なじみの同じ品川駅まで行くおじさんだ。
どこの誰かは知らないが、よく「頑張って」座っているのを目にしている。
その日は残念ながら席取り合戦に負けたようで、ならばと瞬間的に狙いを変え、新宿で降りる小学生に目標をチェンジしたのだ。
おじさんも席取り合戦の合間にチェックしていたのだろう。
そしてその日、合戦に敗れ、焦ったまま小学生を見つけ、既にその前に立っていた邪魔な私を押し退けようとしてきたのである。

一瞬、正直言ってムカッときたのは事実だ。
そこまでするかと思う。
押し返してこちらの意思を明確に伝えようかとも思ったが、それはやめにした。
ケンカになっても勝てると思ったが、それより何よりそんな席取り合戦はみっともない。
いい大人がそこまでするものではない。
おじさんと醜い席取り合戦をするくらいなら、いっそ立って行くことを選びたい。

新宿へと向かうその間も、おじさんは少しでもポジションを確保しようと、ジリジリと私の方にプレッシャーをかけてくる。
私が女子高生だったら、間違いなく痴漢に間違われるだろう。
心の中で、おじさんの「努力」を苦笑しながら、読んでいた本に集中することにした。
貴重な朝の読書タイムをそんなことで無駄にされたくない。
それに、よく見れば小学生の隣のラフな格好をしたお兄ちゃんも新宿で降りそうである。

果して無事、新宿で小学生とお兄ちゃんは降り、私はおじさんと並んで腰かけた。
おじさんはさっそく目をつぶり、私は本に集中する。
メデタシ、メデタシ。

通勤電車のいいところは、席を譲ることを考えなくていいことだ。
お年寄りや妊婦や子供を抱っこしたお母さんなどはほとんどいないから、読書にも集中できる。
さすがに、そんな人を前にして本を読んで座っているのも気が引ける。
そんな「美的行動」も意識していたいと思うのである。

ただ、帰りの電車では、本を読みながらついついうたた寝をしてしまったり、読むのに夢中になってしまい、降りる駅を乗り過ごしてしまったりしているので、もしかしたら席を譲るべきところで譲れていなかったりもしたかもしれない。
まぁ、意図して知らん顔だけはすまいと思っている。

これからだんだんと年も取り、そんな美学も語っていられなくなるのかもしれない。
ただ、気持としては、「みっともないことはしない」というこの単純なルールをいつまでも守り続けたいと思うのである・・・

【本日の読書】



   

0 件のコメント:

コメントを投稿