2015年9月11日金曜日

インセンティブの功罪

 銀行は様々な業種のお取引先を持っている。それぞれ特色があるが、「油断がならない」という特色を持っていたのが不動産業者である。それは何よりモラルというか、品格の欠けた人たちが多いという理由に他ならない。目的を達成するためには、嘘をつくのも平気だったりするのである(もちろん、極めて良心的な業者がいることも事実である)。

 一度、融資額を引き上げるために売買契約金額を偽造して融資の申し込みに来た業者がいた。売買契約書のコピーを取り、修正液で契約金額を実際の金額より1,000万円多く修正して持ってきたのである。幸いにして、見抜いて防いだものの、似たような事例は枚挙に暇がない。なぜそうなのか。

 そもそも不動産業は誰でも簡単に始められる商売である(宅建の免許は必要だが・・・)。仲介業など「机と電話があれば始められる」と言われているし、不動産を買って貸せばそれだけで賃貸業だ。あちらで買ったものをこちらで売るのに、難しいことは何一つない。そういう簡単なビジネスで簡単に儲かるなら、誰でもやる。そして世の中の真理として、そういう「おいしいビジネス」などそうそうない。

 簡単に始められるが、簡単には儲からない。だから給料も固定給を保証できない。経営者としては、儲けた人が儲けただけもらえる「歩合給」を導入せざるをえない。そしてこの「歩合給=インセンティブ」こそが、ゆがんだモラルの原因である。簡単には儲けられないからこそ、「何でもやろうとする」。きれいごと言ってても、お金がかかっていればそんなの構っていられないのである。

 インセンティブは、プロスポーツの世界や営業職などで耳にする。ただそれほど酷い話を聞かないのは、そこまでしなくても稼げているからなのだろうかと思ってみたりする。あるいは、不正をしようとしてもやりにくいというのもあるのかもしれない。それに比べて過当競争とも言える不動産業界は、「なりふり構っていられない」のかもしれない。

 その昔、妻と二人で近所を散歩していて、たまたま売り出し中の家を見つけた時のことだ。冷やかしで見学させてもらったが、熱心に勧める営業マンには「頭金がまだ用意できないから」と断った(銀行員である身分は当然隠している)。すると営業マンは得意気に、「秘策」を説明してくれた。契約金額を上乗せして銀行に言えば大丈夫だと。「銀行さんには見破られませんよ」と胸を張られた(いや、俺なら見破れると喉まで出かかった)。

 そんな輩がわんさといるのである。ちなみに、「大手不動産会社なら大丈夫」と言えないのが、また酷いところ。「住友」の大看板を掲げているところでも、平気で嘘をつく輩がいる。よほど信頼がおけるとわかっている人以外、間違っても信用してはいけないのが、不動産業界の人間である。

 さて、縁があってそんな魑魅魍魎の住む不動産業界に転職してしまった私であるが、当然そんな品のない事はプライドに賭けてしない。伯父にも遺言として言われたし、言われなくとも子供たちに見せられないような仕事をするつもりはない。人様の喜びを何よりの報酬としながら、しっかり会社の収益に貢献してみせようと意気込んでいる。

 少人数の中小企業ではあるものの、インセンティブは社員全員で享受するようにしていきたいと思うのである・・・


 【本日の読書】
漫画 君たちはどう生きるか - 吉野源三郎, 羽賀翔一 村上海賊の娘(三)(新潮文庫) - 和田 竜




    

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