2022年8月24日水曜日

人間性

 現在、前職のT社長とは法廷バトルを展開している。そもそもの発端は、前社長が会社を売却してしまったこと。事前に何の相談もなく、ある朝突然全社員を集めて発表するというやり方であった。退職金はなし(理由は退職金規定がなかったから)、退職時期は2ヶ月後。希望者は知り合いの社長(一応、上場会社)に雇用を了承してもらったから自分で履歴書を持って行ってほしいというもの。当然、大ブーイングである。その後の交渉で、1人あたり退職金50万円を認めたものの、中には勤続20年近い社員もいて、納得感はゼロであった。

 そもそも入社したのは、母高のS先輩の紹介。といってもT社長も同じ母高の先輩で10年来の顔見知りであった。赤字会社であることは承知で銀行から転職した。小さな会社だったが、私には「鶏口となるも牛後となるなかれ」という考えが昔からあったので、「面白そうだ」と大胆にも思ったのである。そして、仕事自体は確かに面白かった。T社長から仕事をほぼ任せてもらえたので、会社の経営はすべて代行して行った。結果、私の入社前に8期のうち6期赤字だったものを6期連続黒字に変えたのである。

 もともとT社長は、親が会社を上場させた成功者であり、そのためいわゆる「金持ちのボンボン」として育つ。親が残した遺産でお金だけは億単位で持っていたが、おっとりしていて経営に関してはほぼ素人であった。その代わりお金に関しては執着心が強く、ゆえにM&Aによって会社を売却し、億単位のお金を手にしたのに8人の社員には150万円の退職金を渋々出すという有様であった。もしも私であれば、億単位のお金を手にするなら、一人当たり0ひとつ多く出すだろうと思う。

 そういう人柄がわからなかったのかと言えば、6年半一緒に働いてわからなかった。ただ、今にして思えば思い当たる節はある。机を整理していて自分の父親の運転免許証が出てきた時のこと、T社長は迷うことなくそれをゴミ箱に放り入れた。この感覚は私にはない。『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』という本に共感し、T社長に読んでもらったところ、「俺にはここまで(社員を大切に)する考えはない」と言いきった。

 また、高校の同級生を社外取締役にしていたが、その同級生が退任後、お金に困ってT社長に300万円の借金を頼んできた。その話を私にしながら、「返ってくると思うか?」と尋ねてきた。元銀行員の感覚から、貸すなら返済を期待しない方がいいと思ってそう答えたが、T社長はその場で断ったそうである。「泣かれて困ったよ」と半ば愚痴のようにこぼした。ちなみに、断られたその方はS先輩に頼みに行ったそうであるが、S先輩は困惑しつつも貸したそうである(後日返してもらったと言う)S先輩は普通のビジネスマンの身分である。

 私であれば、親しさにもよるが、自分の会社の社外取締役を頼むくらいの間柄なら、無理のない金額で貸すだろう。少なくともゼロ回答はない。条件として、「例え返せなくても飲みに行く間柄は維持しろ」と言うだろう。それで友達を失いたくはない。T社長にとっては、友人関係よりお金の方が大事だったということだろう。例え損をしたとしても、その金額が自分に悪影響を与えるほどのものでなければ、困っている友人を助ける方が気分もいいと思うが、T社長にとってはそうではないのだろう。「お金には変えられないものがある」とはよく言うが、T社長にはそんなものはないのだろう。

 また、親の代から家族ぐるみである人と付き合っていたそうであるが、その人が数年前に金融証券取引法違反で逮捕された。T社長も我が社も関係を疑われて検察の取調べを受けたが(きちんと関係ないことは認められた)、それを機にT社長はその人とキッパリ関係を絶った。最初のうちは弁護士に接触しない方がいいとアドバイスを受けたことによるものであるが、ほとぼりが覚めて、後日お詫びを兼ねて連絡があった時も嫌々ながら弁護士を同席させて会ったそうである。私なら弁護士がなんと言おうと、無条件で会って励ますだろう。

 よく、窮地に陥った時の友こそ真の友と言われるが、T社長は真っ先に逃げ出すタイプである。おそらく、T社長には窮地に陥った時に友人などに我が身を顧みず手を差し出すなんて感情などないのだろう。いわんや社員の「使い捨て」を気にするようではない。私の感覚から言えばとても信じ難いのであるが、そういう人間性なのである。もっとも、本人はそれのどこが悪いという感覚であろうし、人の感覚は違って当たり前なので悪いとは言わない。強いて言えば、人間性の違いと言える。

 同じ高校の後輩を使い捨ての形で首を切り、そんなことをすれば同窓会での評判が悪くなるであろうにまったく気にする素振りもない。立派と言えば立派である。であれば、法廷バトルも遠慮はしない。徹底抗戦しようと意気込んでいる。世の中には色々な人がいる。冷たい心の人もいれば温かい心の人もいる。冷たい人を恨んでも仕方がない。温かい人とのみ交われば良い。少なくとも自分から人を裏切ることはせず、困った友には手を差し伸べられるようでありたい。そして願わくば、助け上げられるだけの「力」を持ちたい。「知り合えてよかった」と思われる人間でありたい。

 還暦が近づいてきている年であるし、自分自身に後ろめたくない人間、子供に対して恥ずかしくない人間。自分はそういう人間でありたいとつくづく思うのである・・・


Dim HouによるPixabayからの画像 

【本日の読書】

 


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