2021年8月26日木曜日

タリバン政権について思うこと

 アフガニスタンから米軍が撤退すると発表され、その期限が迫るとなった途端、タリバンが北部の州都を制圧し始め、あっという間に首都カブールに侵攻し、政権が崩壊してしまった。米軍が撤退を発表してからあれよあれよという間である。カブールでは外国人はともかく、アフガン人の米軍協力者やタリバンを恐れる人々が空港に殺到しているという。中には発進した輸送機に乗り切れない人が機体にしがみつき、離陸後に落下するという悲劇も起きているらしい。

 なぜ、こんなにも早くタリバンが侵攻し、政権が崩壊してしまったのだろう。ニュースをさらりと聞き流しそうになって、ふと興味を持ってみた。タリバンは中露の後押しを受けているということであるが、総兵力は約6万人と報じられている。一方、これに対するアフガニスタン正規軍は30万人。さらにアメリカは2002年以降、アフガン治安部隊に880億ドル(9兆7000億円)の資金支援を実施し、軍用ヘリコプター「ブラックホーク」など多数の米国製の装備品も提供してきたという(日経新聞)。戦力では圧倒的な差があるはずである。

 ただ、アメリカも圧倒的な戦力差がありながらベトナムで負けた歴史がある。戦力差だけで単純に比べられないのは確かである。しかし、激しい戦闘の上で敗退したならともかく、わずか3週間ほどの短期間であり、「蜘蛛の子を散らす」ように正規軍が逃げた雰囲気がある。おそらく士気の差が圧倒的だったのだろう。いくら装備に優っていても、立ち向かう気持ちがなければ武器などなんの役にも立たない。それに汚職なんかも激しかったようだし、ガニ大統領は札束抱えて亡命したらしいし、そのあたりに原因があるのだろう。

 我々が見ているのは常に「西側」のニュースである。私が薫陶を受けた師匠は、「複眼思考」という言葉を常々語られている。物事を一方向からだけ見るのではなく、角度を変えて見るということである。今回のニュースでは、タリバンの偶像破壊とか女性抑圧とかの蛮行が強調され、慌てて女性のポスターを剥がす店舗や不安を訴える人々の話などが報じられている。しかし、「アメリカ」を「ロシア」あるいは「中国」と置き換えると、ニュースのニュアンスはガラリと変わる。それが偏っている何よりの証拠である。

 そもそも6万人の兵力だけで国土を支配することができるはずもない。それも重装備の正規軍が30万人もいるのに、である。ニュースではタリバンを恐れる人々の顔しか映さないが、支持する人だって当然いるわけである。アメリカが南ベトナムを支えきれなかったのも、北ベトナムの軍事力が強かっただけではなく(むしろ軍事力ではアメリカ・南ベトナム側の方が優れていたのである)、市民レベルで南ベトナム政府が支持を得られなかったからに他ならない。今回のアフガニスタンも結局のところ同じなのではないかと思う。

 かと言って、タリバンが正義というわけではない。現にタリバンは早くも元政府軍への総攻撃を開始し、厳格なイスラム思想に沿った女性や子供達への締め付け、米軍協力者の捜索が拡大しているという。要はどちらが正しいかと言う話ではなく、どちらが国民の支持を受けているのかという話である。そこにはアメリカ=正義、民主主義=正義という図式が当てはまらないということだと思う。タリバンにはタリバンの正義があり、そしてそれは我々の考える正義とは異なるが、現地の人たちからは(少なくとも政府よりも)支持を得ているということなのではないだろうか。

 それになぜアメリカが撤退を決めたのかということもある。詳しいことはわからないが、「一言で言えばアフガニスタン政府を支える必要がなくなった」ということは間違いない。石油に依存する必要がなくなり、中東のプレゼンスが低下しているということは専門家の意見としてよく目にする。正規軍兵士のモラルも低く、武器の横流しなどもかなり行われていたと言う。20年もの間、10兆円近くつぎ込んできてもそれでは守る価値もないということなのだろう。米軍に占領された歴史のあるわが国と比較してもその違いは明らかである。わが国は戦後6年で米軍の手を離れて国際社会に復帰している。

 今後、タリバン政権がどんな政治を行うのかはわからない。懸念されているように、我々の理解できないイスラム思想に基づいて窮屈な恐怖政治を行うのかもしれない。ただ、それはアフガン人の選択であり、周りがとやかく言うべきものではないと思えてならない。タリバンは、米軍の総攻撃で散り散りなって20年、その間消滅することなく勢力を拡大または維持し、着々と米軍が去るのを待っていたわけである。当然6万人だけではなく、それを支持する人たちがいたという事実は重いと思う。

 事の真相はわからないが、一つの価値観にとらわれる事なく、いろいろな見方をしていきたいとだけは、改めて思うのである・・・


【本日の読書】



0 件のコメント:

コメントを投稿