2020年10月25日日曜日

代紋TAKE2と人生やり直し

 小学生の頃からたくさんの漫画を読んで来たが、「手元に置いて起きたい漫画」「何度も読み返したい漫画」というのはそう多くあるわけではない。最近、スマホで手軽に漫画が読めるので、暇をみてはいろいろと読んでいるが、最近見つけて読み直しているのが「代紋TAKE2」である。原作は全62巻の長編だが、過去に3度通しで読んでおり、今回が4度目である。私の中では間違いなく「何度も読み返したい漫画」の一つである。

 物語は31歳のうだつのあがらぬヤクザ阿久津丈二が主人公で、21歳の時に素人の学生応援団にボコボコにされ頭を下げてしまう。以来、やることなすこと裏目裏目の人生で、最後は弟分に鉄砲玉を命じられ、ドブ川で自分の撃った弾が当たって死んでしまう。ところが神のいたずらか、10年前の自分に戻ってしまう。そこから人生をやり直す(TAKE2)というよくある人生やり直しの物語である。

 二度目の人生のやり直し時点は、運命の学生応援団にボコられているところから。かつての悪夢の再現である。しかし、そこは2度目。開き直って対峙する。ヤクザは負けても何度でもやり返すと気迫で相手を圧倒し、詫びを入れさせる。そこから好転した新しい人生が始まる。未来(丈二にとっては過去)の記憶を生かして競馬で大勝ちしたり、流行りとなるノーパン喫茶(今となっては懐かしい)をいち早く始めて成功したり、さすがに2度目の人生だから大きな失敗は事前に回避できるし、未来の知識を利用することもできる。丈二は徐々に組織の中で頭角を現して行く。

 しかし、好転した人生は新しい展開となる。それは過去に経験した自分の人生とは異なるもので、その人生をどう生きるかは新しい試練。そこでもまたうだつのあがらぬ別の人生を送るかもしれない。しかし、最後はドブ川で死んだ恐怖から、丈二はそれまでの自分とは違う自分になっていく。一言で言えば、「信念のある生き方」である。ヤクザゆえに相手と対立するのはしょっちゅう。しかし、引いてしまえばそれで終わり。TAKE2では信念を通し、ピンチにも臆さず向かって行く。

 あるヤクザの老親分が、最近の若いヤクザは損得ばかり考えると嘆くシーンがある。金勘定だとか、どう振る舞ったら得するかとか。そうした傾向に対し、丈二は「ヤクザは職業ではない、生き方だ」と若い者に諭す。それが証拠に、自分の考えを通すために日本最大の暴力団の直系の盃の話をいとも簡単に断ってしまったりする。そしてそれが逆に相手の強い信頼に繋がったりする。己の筋を通すためにたった9人で200人相手の殺し合いに臨む。周囲には損得勘定で動くヤクザが多数出て来て、丈二との違いは際立ってくる。

 なぜこの漫画が面白いかと言うと、それは単に「人生をやり直してみたい」という誰もが思うであろう夢物語を描いているからというわけではない。また、ヤクザを主人公とした漫画で、ヤクザの生きる姿がカッコいいというわけでもない。たまたま主人公がヤクザではあるが、その主人公が2度目の人生で、損得勘定ではなく己の信念(=筋)を通して生きているからだろう。「こんな生き方をしてみたい」という生き方をしているからに他ならない。

 「夢に向かって生きよう」とか、「人生はチャレンジだ」とかはよく言われる。特に成功者の自伝なんかにはいかにチャレンジすることが大事かということが再三語られている。それを否定するつもりはないし、その通りだろうと思う。では簡単にチャレンジができるかというと、そうではない。やっぱり「失敗したらどうしよう」と考えて怯んでしまうことはよくある。その点、丈二は一度失敗してドブ川で惨めに死んでいるわけである。それを考えればなんでもできるわけで、だから大胆に損得は捨てて筋を通せるとも言える。

 もしも実際に人生のやり直しができたとしたら、自分の人生はどう変わるだろうと夢想してみる。上がるとわかっている株を買ったりするだけで金銭的には豊かになれるだろう。今の会社ももう少し早く転職していろいろと手を打っておけば今頃随分楽をできていただろう。今頃あれこれ業績のことを心配する必要もなかったと思う。やり直す時期にもよるが、高校・大学まではそのままでいいだろうが、就職ぐらいから今とは違う人生を選ぶかもしれない。

 人によってどの時期からやり直したいかはバラバラだろうと思うが、その「時点」が「もっとよかったかもしれない人生」の分かれ道と言えるのかもしれない。しかし、人生は「考え方」だと思う。仮にやり直したとしても、「考え方」が変わらなければ、マイナーチェンジで終わるだろう。慎重すぎる人は新しい人生でもやっぱり慎重すぎるだろうし、会社や資産状況が変わったとしても、似たような人生を歩んでいるだろうと思う。

 その点、丈二は劇的に考え方を変えたわけで、それゆえに一介のチンピラから関西最大の暴力団の若頭に見込まれたり、千葉に流れていってたった5人の組員の老舗の組を引き継いでからわずかの期間に2500人を超える構成員の連合のトップになったりする。それは未来の知識を利用してというよりも、ドブ川で惨めに死ぬ恐怖を跳ね返しての信念の生き方によってである。まさに「考え方」を変えたがゆえの成功と言える。

 実際に人生のTAKE2はありえない。皆やり直しの効かない一発勝負である。今さら考え方を変えるわけにも生き方を変えるのも家族がいたりすれば難しいと、言い訳を考えてしまう。それでも損得勘定ではなく、自分の考え方をしっかり持って、その上で行動できるようではありたいと思う。阿久津丈二のように。4回目でストーリーもよくわかっているが、それでも丈二の活躍は読んでいてスキッとする。あと何回読むかわからないが、何度でも心地よく楽しみたいと思う漫画なのである・・・


【今週の読書】
  



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