2020年9月13日日曜日

リスク思考

先日のこと、会社に誤振り込みがあった。賃借人のA氏から家賃の振り込みをしていただいたのであるが、実は管理会社が我が社から別の会社(B)に変わっており、それは既に通知していたのであるが、A氏が間違えて我が社に振り込んできたのである。家賃の振り込みがないB社がA氏に督促したところ、我が社に振り込んだことが判明し、B社から我が社に連絡があったと言う次第である。

B社の担当者曰く、うちからB社に振り込んで欲しいとのこと。電話を受けた担当者から私に対し、「B社に振り込んでいいか」と許可を求めてきた。さて、どう答えるべきか。普通はまず会社に入社し、一からOJTで仕事を覚えていくものであろう。そうしていろいろと経験を積んでいく中で、役職者になり、部下に問われれば過去の経験から適切な答えを教えるものであろう。しかし、私は銀行から不動産業に転職してもうじき6年。未経験のことはまだまだ多い。未経験の事態に対峙し、考えた。

電話を受けた部下は話の流れを理解し、我が社からB社に振り込めば早いと咄嗟に考え、そうしていいかと許可を求めて来たのである。こういうケースは我が社では稀であり、電話を受けた担当者も過去には経験がなかったのである。それに対し、私はダメだと答えた。そして間違えて振り込みをして来たA氏に連絡を取り、お金は我が社からA氏に直接返金すること、その際、振り込み手数料はA氏に負担いただくことを説明するようにと指示した。

なぜ、シンプルにB社に振り込みをしなかったのか。A氏はB社にお金を振り込まなければならないが、お金は我が社にある。我が社からB社に払えば簡単であるが、A氏に返金すればA氏はB社に再度振り込みをしなければならず、余計な手間暇がかかる。しかし、我が社から見ると、B社に振り込んだ場合に発生する事態をいろいろと想定しなければならない。そのとき考えたのは、以下の通り。

1.   我が社からB社に振り込む場合、振り込み手数料は誰が負担するのか
2.   もしも、後になってA氏から「我が社に間違えて振り込んだので返してくれ」と言われたらどうするのか
1については、我が社に振り込まれたお金は家賃だけで、そのお金を振り込むのには振込手数料がかかる。筋からして我が社で負担するものではないので、本来負担すべきA氏に負担してもらうにはもう一度振込手数料相当額を振り込んでもらわないといけない。それは面倒である。

 2については、届け出のあった携帯電話の番号で話しているのでA氏本人と間違いないとは思うが、実は他人だったりした(肉親が電話を取って勝手に答えたというような)場合、A氏本人から返金を求められたら我が社は応じないといけない。実はA氏に悪意があったりして、「B社に振り込んでくれなどと言った覚えはない」とあとで言われても同様である。どうしても我が社からB社に振り込むのであれば、後日の紛争に備えてその旨の依頼書をA氏からもらっておく必要がある。

 そうしたことを頭の中で考え、担当者に指示を返したのである。担当者は、当初「なんで(そんなかたっ苦しい対応を)?」という反応だったが、電話を切ったあと私の説明を聞いて納得してくれた。なぜ、初めてのケースにも関わらず、上記の対応が自然に思いついたのであろうと自分自身考えてみた。それは、言われるがまま振り込みをした場合どうなるかを頭の中でシミュレーションしてみたから(手数料をどうするのかと思いついた)であり、何か後々問題になることはないかと考えてみた(返金してくれと言われたら?)からである。

 なぜ、そうしたシミュレーションをしたのかというと、それは銀行員時代から「後々どんなリスクがあるだろうか」と考える癖がついていたからに他ならない。まあ、銀行員であれば誰でもそういう癖はついているだろう。加えて、銀行の事務手続きについて、「どうしてこうするのだろう」と疑問を持ってきたことにもよると思う。銀行の手続きについては、みな理由がきちんとある。教えられるままただ手続きを覚えるだけでなく、その意味もいつも考えるようにしていたのである。それが手続きの裏側を考える癖になったと言える。

例えば、金額の大きな振り込みについては、女子行員が送金手続きをしたあと、必ず上司が承認をしないとお金が出ていかないようになっていた。それは単なるミスのチェックかと思ったが、実は過去に女子行員による有名な横領事件があって(男に大金を送金して貢いでいたのであるが、その当時は単独で送れたのである)、それ以来大口の送金には上司の承認が必要になったということであった。このようにそれぞれの事務手続きには意味があり、それを確認する癖をつけていったら、いつの間にか「考えなければならないリスク」を考えられるようになったのである。

 刑事が人を見れば疑う(あくまでもイメージ)のと同様、銀行員は常にリスクを考えるのが習性なのかもしれない。それが良いのか悪いのかと考えてみると、少なくとも仕事においては役立つことが多いかもしれない。電話を受けた担当者は、単に表面的に話を捉えただけで終わっており、それは優秀であるとかないとかの話ではなく、リスクを考える習性の違いであると思う。銀行員をやっていた経験がこういうところで生きているのだなと改めて思ったのである・・・




【今週の読書】
 




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