2016年4月24日日曜日

考えるサラリーマン

 長年サラリーマンとして働いてきたが、その仕事に対するスタンスには二通りあるように思う。一つは言われたことを言われた通りにきちんとやるタイプで、もう一つは言われたことを言われたやり方が一番いいかどうか「考えてから」やるタイプだ。もちろん、言われたことをやれないという人もいるだろうが、それは論外だ。
 自分はいつの頃からだろうか、後者のタイプであることを意識し、取り組んできている。

 サラリーマンだから、当然指揮命令系統というものがある。会社の方針があって、それに従ってみんなが仕事を進めている。上司は部下に「やるべきこと」を指示し、部下はそれを忠実にこなすのがあるべき姿である。だが、上司だって完璧ではない。その指示だってひょっとしたら他にもっといいやり方があるかもしれない。もしあるならその方がいいだろうし、そのやり方は場合によっては部下の方が精通しているかもしれない。そんな時は、当然「意見具申」すべきであろう。

 だが、多くの人は黙って指示に従うように思える。もちろん、指示には従わないといけないが、正しく言えば「考えずに」従っている。もしかしたら考えているかもしれないが、それを口に出さず、黙って従っている。言われた通りにやることは楽である。何も考えなくてもいいし、間違えても言われた通りにやっていれば責任を問われることはない。日本には「滅私奉公」の伝統があり、もともと黙って従うことを良しとする文化がある。だからそうなるのかもしれない。

 しかし、「この黙って従う」という態度は上司からすると従順でいい反面、「頼りない」という印象を持たれるのも事実である。なんでも素直に従うのというのは、一見良さそうに思えるかもしれないが、「自分の意見がないのか」という不満につながる。自分の意見がない人は、ロボットと同じである。よく会社の社長が、「社内に人材がいない」と嘆くのは、こういうケースが多いのではないかと思う。ロボットはあくまでもロボットで、頼りになる右腕になることはない。日頃から何事につけ考え、自分の意見を言っていれば、何かあれば意見を求められるし、ロボットとは見られないであろう。

 もっとも、ただ意見を言っているだけでは、「ただのうるさい奴」で終わってしまう。その意見には当然筋が通っていないといけない。「筋が通っているかどうか」は、そう難しいことではない。やろうとしていることの「目的」は何か、その「目的」を達成するための「手段」は最適か、それさえ押さえておけば良い。よくありがちなのは、いつの間にか「目的」が忘れ去られ、「手続き(手段)」が一人歩きし、いつの間にか盲目的に「手続き」をすることが「目的」になってしまうことである。笑い話ではなく、私の身の回りでも実際によくあることである。

 銀行員の新人時代、よく「ひとつ上の立場になったつもりで考えろ」と指導された。今から思えば、それは盲目的に指示に従うだけではなく、指示を出す立場になって考えろということであったのだろう。やるべきことの目的は何か、その目的を達成するための最適の手段は何か、常に自問自答できれば、「考えるサラリーマン」に簡単になることができる。そして考えていても黙っていては外部には伝わらない。やはりきちんと意見表明できないといけない。その上で指示に従うのが、ベストであろう。

 さらには「主体性」もある。自分が上司だったら、あるいは自分がトップだったらどう考え、判断するだろうか。そういう意識を持っていたいものである。よく我が社にも営業マンがやってくる。何か結論を求めた時に、「上に確認します」というような答え方をする人が結構いる。もちろん、決定権限がその人にない以上、その答えは間違いではない。ただ、「上に確認します」というのと、「持ち帰って検討します」というのとでは、相手に対する印象が大きく違うと思う。「上に確認します」というのは、いかにも自分はメッセンジャーでしかないと言っているようなものである。メッセンジャーを頼りにしてくれるお客さんはいないだろう。

 「会社を代表して」営業先を訪問しているのか、それとも「お使い」で訪問しているのか。「会社を代表して」来ている意識があれば、自ずと言葉遣いや態度に表れるだろう。私もここはこうするべきだろう、こうすれば上司もOKしてくれるだろうと思えば、そういう言動も相手に与えられる。言葉尻だけ気をつければいいわけで、相談されていちいち「持ち帰って回答」していたのでは、メッセンジャーに成り下がってしまう。「これで大丈夫ですが、後ほど正式に回答させていただきます」とでも答えられれば、権限を逸脱することなく、メッセンジャーになることを回避できる。すべては意識の問題である。

 そうした意識を持ち続けてきてよかったと、最近実感することが多い。中小企業に転職してみれば、自分にスポットライトが当たるケースが多くなる。そんな時に、「自分で考えて動ける」かどうかの差は大きい。

 娘はこの春入学した高校で、運動部のマネージャーになった。新人のうちは言われたことを黙ってやっていればいいし、そういう時期も必要である。だがある程度慣れたら「自分で考える」ということも必要になってくる。頃合いを見計らってアドバイスしようと考えている。今から考える癖をつけることが、何より大事だろう。会社に勤めるのであれ、何であれ主体的に考えて行動できることは、将来的に必要なスキルであり、ならば今からトレーニングさせてあげたいと思うのである・・・



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