2023年5月28日日曜日

現場はわからなくとも・・・

 学生時代の就活時、銀行を志望したのは「経済のことを学んでいないのに実業の世界に出て行って大丈夫なのか」という疑問があったからである。今から思えばみんなそうだから気にすることではないのだが、当時は弁護士を目指して法学部に入ったのに、「法律が性に合わない」という思ってもみなかった理由で方向転換せざるを得なかった(しかも4年時にである)という焦りがあったのである。「銀行に入れば経済がわかるようになるだろう、うまくいかなくても経理部はどこにでもあるから、いざとなればどこかの経理部長くらいにはなれるだろう」という安易な考えもあった。

 時は流れ、今は財務の能力を買われ、財務・人事・総務を統括する立場となったので、あながち的外れでもなかったと思う。今の会社は知人の紹介で転職したが、本業はそれまでまったく縁のなかったシステム開発。果たして大丈夫だろうかという不安はあったが、「経理のない会社はない」という状況は昔から変わらず、「自分が求められることはできるだろう」と決断したのである。実際、求められている以上に仕事はできていると思うし、だから入社して1年で役員にしていただいたのだろう。

 しかし、である。我が社は現在売り上げ低迷中。業績は計画比大幅にマイナスである。その原因は、私の立場からみるそれと現場の役員のそれとは異なる。数字から冷静にみていけば私の考える原因なのであるが、現場はそうはみていない。数字の上からは現場の意見を否定できるが、私には現場の事がわからないという弱点があり、相手の意見を論破できない。原因を正しく捉えられなければ対策も正しく取れない。役員会でもしばしば議論となるが、私もどうもはっきりと断言できないもどかしさを感じている。

 前職は不動産業であった。売買と賃貸と管理とで売上を上げていた。それは銀行員の感覚でも十分に対応できるところで、だから売上から利益に至るまで会社全体の経営がわかったし、だから当時の社長になり代わり実質的に会社を動かす事ができた。かつて不動産業は「机と電話があればできる」と言われたらしいが、そういう「やさしい」事業だと言える(もちろん「経営」には難しさもある)。赤字で瀕死の状態の会社に入ったが(私が入る前の8年間でなんと6年赤字を計上していたのである)、在籍していた6年間すべてで黒字を計上できたのもそんな事業特性があったからなのだと思う。

 しかし、システム開発の現場はそうはいかない。やっている事を外側から眺めてなんとなくは理解できるが、自分がやっていたわけではない。「こうしたらどうだ」というアドバイスができない。仮にできたとしても、どこまで相手に腹落ちさせる意見が言えるだろうか疑問である。相手も「現場を知らない人の意見」という見方をするだろう。そうなればどこまでこちらの言葉が響くかわからない。そこが非常に難しい。「自分の担当は間接部門であり、関係ない」と言えたら楽だろうが、役員である以上そうは言えない。

 しかし、間接部門の良さは客観性にあるのも事実。「現場がわからない」からこそ、冷静に現状を見る事ができるのかもしれない。そう思い直して意見を主張していくつもりである。されど現場もサボっているわけではない。できていないのはサボっているというより「意識の違い」かもしれない。施策に優先順位をつけて、優先順位の第一位のものから徹底してやる。そしてPDCAをきちんと回す。それを地道に実行していくのが王道のように思う。

 それに関しては、自社だけで限界があるなら他社に学ぶのもいいと思う。「自分たちはこれまでこうやってきた」、「これにはこうするしかない」という思い込みが、ひょっとしたら現場にはあるかもしれない。うまくやっている他社の事例を見てみたら、意外な方法でうまくやっているかもしれない。自分で考えてうまくいかなければ外部に学ぶしかない。そういう発想は現場にはない。であれば、そういう発想ができる自分が意見具申するしかない。そんなふうに考えている。

 今はジョブ型雇用などというものが出てきている。専門性を限定して雇用に応じるというものであるが、「財務」は自分の得意分野の筆頭である。企業の活動は数字に表れるし、したがって数字を見ればその企業の特徴や問題点がわかる。それはそれで面白いし、これからもそれを極めていきたいと思う。そしてそれは単に数字だけをみているのではなく、「数字をいかに作るか」も大事な仕事であると思う。「現場」のことはわからないが、だからと言って卑屈になるのではなく、「現場」には見えないものを見る力を養っていきたい。そしてその分野で会社に貢献していきたいと思うのである・・・

Steve BuissinneによるPixabayからの画像

【本日の読書】

 




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