2020年7月29日水曜日

海の色は何色か

白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
若山牧水
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 海の色は何色ですかと問われれば、普通は「青」と答えるだろう。私は個人的に最高の悦楽は、「南の島のビーチサイドのヤシの木陰でトロピカルドリンクを飲みながら本を読むこと」だと思っているが、その時目の前に広がるのはどこまでも青い空と限りなく透明に近いブルーの海である。私も海の色はと問われれば、この情景を思い浮かべて「青」と答えるだろう。それはそれで間違いではないが、実は正確ではない。

 海の色が青く見えるのは(空の色もそうみたいだが)、太陽の光を反射しているからだそうである。それが証拠に、海の水をコップにすくってみれば透明である。それは空の色に当てはめてみても空気が透明なのと同じなのだろう。実際、同じ海でも夜に見れば真っ黒に見えるし、台風が来て荒れている時は灰色っぽく見える。海水自体は透明であり、周囲の影響を受けていろいろな色に見えるわけである。それは空の色もしかり。

 海の色はと聞かれて、「青」と答えるのは思い込みである。聞かれた瞬間に、「晴れた日の海」が頭の中に広がり、そうして「青」と答えるわけである。それが悪いとは思わないが、人にはそうした思い込みがかなりあると思う。「先入観」とも言えるもので、これと思い込んだものに対しては、それを否定する要因があったとしても冷静に受け止められずに排除してしまうのである。自分の考えと異なる意見があった場合、これを冷静に受け止めて咀嚼し、場合によっては自分の意見を変えるというのは難しいことなのかもしれない。

 今も韓国との間では「従軍慰安婦問題」「徴用工問題」があるが、私も小中学校の頃は「悪の日本軍がとにかく悪いことをたくさんした」と教わり、そういうものだと思っていた。ところが慰安婦問題ではそれを否定する意見をたびたび目にし、今では180度考えが変わっている。では、今の意見が本当に正しいのか、それも誤った思い込みではないのかと問われれば、今のところそれが変わる可能性はない。自分なりに見聞きしてきた意見・証言等を総合すれば、否定的にならざるを得ないからである。

 肯定する人は、日本軍が朝鮮の女性を強制連行し「性奴隷」にしたと主張するが、その背景には、「日本軍はとにかく悪いことをした」という背景色があると思う。もちろん、「日本軍は常に礼儀正しく間違ったことはしていない」などというつもりはないが、すべて悪と決めつけるのも正しくはないだろう。そうした背景色を排した上で、透明の事実というものを見るようにしたいと思う。もちろん、今となっては残された資料から推測するしかないわけであるが、そうした背景色があると、自分が正しいという資料だけを見てしまうかもしれない。

 人は見たいものだけを見るというのは、よく言われること。株式投資などでは、持っている株が下がると、ついつい上昇が見込まれそうな情報に飛びついてしまう。上下両方の情報があった場合には、上がりそうな情報にしがみついてしまうのは、自分自身さんざん経験したことである(そうして結局、さらに下がって泣きを見るのである)。「こうなって欲しい」という願望や、「こうなのだろう」という思い込みが人にはどうしてもある。それに沿った意見を採用するのは当然なのかもしれない。

人は常に自分の人生の主役であり、自分の意見こそが正しいと信じている。それはある意味当然であるが、やはり背景の色に惑わされず、そのもの自体の真実を見極めたいともう。たとえそれが己の意にそわないものだとしても。慰安婦問題に関しては、数ある反論のうち、もっとも説得力が高いのが、「慰安婦たちは高額の報酬をもらっていた」というものである。奴隷なら当時の日本兵をはるかに上回る報酬など得られないだろう。その他にも米軍が保護した慰安婦に対する聞き取り調査の報告書等の状況からすれば、慰安婦問題はかなり眉唾であるとの判断に至る。

もちろん、それすら夜の海の色なのかもしれず、それを否定するような事実があればまた柔軟に考えるべきだろうとは思う。徴用工問題にしても、日本人ですら「勤労奉仕」が女子供にも課されていたわけであり、「強制」も今の時代感覚をベースに考えると背景色が色濃くなる可能性がある。歴史上の出来事は古くなるほど背景色が濃くなるかもしれず、難しくもあり気をつけなくてはいけないところであると思う。

 自分と異なる意見の人の話を聞くのは、なかなか難しい。ついつい反論したくなるし、してしまう。それはそれで悪くはないと思うが、反論の前に一呼吸置いて相手の意見をよく咀嚼するようにしたいと思う。なかなか難しいのであるが、そうした意識だけは忘れずに持っていたいと思うのである・・・


pasja1000によるPixabayからの画像 
【本日の読書】
 



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