2020年1月13日月曜日

論語雑感 里仁第四(その12)


〔 原文 〕
子曰。放於利而行。多怨。
〔 読み下し 〕
()(いわ)く、()()りて(おこな)えば、(うら)(おお)し。

【訳】
先師がいわれた。――
「利益本位で行動する人ほど怨恨の種をまくことが多い」
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 今年も正月は年賀状をそれなりにいただいた。なんとなくこういう習慣は面倒だとは思うものの、年に一回年賀状だけをやり取りしている人も多く、やめれば繋がりが切れてしまう気がしてなんとなく憚られる。すでに年賀状だけのやり取りになってしまっている人の名前を見ていくと、だいたい仕事関係が多い。昔の同僚や取引先といったところである。なんで年賀状をやり取りするようになったのか、よく覚えていない。

 ある取引先の方は、先方からわざわざ「年賀状を送りたい」と言ってこられた。その時は自分でもいい仕事ができたと満足しているが、おそらくその方もそう思っていただいたのであろう。それでも私に言うくらいだから他にもそうだろうと思う。多分、相当数の年賀状を毎年送っているに違いない。それは果たしてどういう意図なのであろうかと考えてみる。

 会社にも多数の年賀状が届いているが、それはだいたいにおいて社交辞令的なものである。親しい者同士の挨拶ではなく、仕事上の付き合いによる、つまりここで孔子の言う「利によりて行う」に当たるものである。会社同士ではなく、個人でも仕事を通じて知り合った場合には、「この人とプライベートでも親しくしたい」と思う場合と、「ビジネス上の人脈拡大」という意味があると思う。誰がどちらとはわからないが、ビジネス上の人脈拡大の場合が、「利による」と言えるのかもしれない。

 知人には親の代から長年家族づきあいをしてきた方がいたそうであるが、その方が実は事件を起こして逮捕されるという事態になったそうである(事件といっても経済上の法律違反である)。以来、連絡を絶ってしまったそうであるが、ということは、家族ぐるみのつきあいも親の代からの慣習みたいなもので、その知人にとっては「利による」ものだったのだろう。よく調子のいい時に集まってきていた人たちが、調子が悪くなった途端に一斉に引いていくというのはよく聞く話。自分は間違いなく堂々と残るタイプであるから、知人のようにあっさり引く気持ちは理解できない。

 知人には知人なりの理由はあると思うが、親の代からの家族ぐるみの付き合いが、結局は利益ベースだったということなのだろうと思う。それを批判するつもりはないが、そういう人物は、信頼はされないだろうと思う。怨恨を招くかどうかはわからないが、少なくとも信頼は得られないと思う。否、むしろ相手から見れば、あっさり距離を置いた知人に対して、恨み節の1つも持ったかもしれない。いざとなった時に自分の利益を優先に考えることが悪いとは言えないが、人と人の深いつながりは得られないと思う。

中学3年生の時、国語の最後の授業で先生に宿題を出された。もうすでに成績は確定していて、その宿題を出しても出さなくても内申書や成績表には何の関係もなかった。厳しい先生だったし、普段だったらみんな提出したであろうが、何の利害もないとなると周りの友人たちはみんな「やらないよ」と語っていた。しかし、私はあえて提出した。「成績に影響するから出す、影響しないなら出さない」という利的行動が嫌だったのである。先生からは力のこもったメッセージとともに宿題が返されたのを覚えている。


 またその昔、銀行員時代に関連会社に出向していた時のこと、大きなミスをして上司に叱られたことがあった。それはそれで仕方がないのであるが、残念だったのは、その時その上司が「俺が社長に何と言われると思っているんだ」と言われたのである(正確な表現は忘れてしまったが、そういう意味のことである)。部下を叱責するのはミスをしたケースなど当然であるが、それはあくまでも部下に同じようなミスを起こさせないための叱責であったりするべきであろう。それが何より真っ先に気にするのが自分の評価というのもがっかりである。その上司に恨みを持つことはなかったが、呆れたことだけは確かである。

 スポーツでも会社組織でも、人間関係の中において、人は皆それぞれの考え方があって行動している。その中で判断基準が常に自分の利益という人は、恨みを買うかどうかはわからないが、周りの信頼を得られないことは間違いない。私もやはりそういう利益中心の人とはあまり深いところで付き合いたいとは思わないし、いざとなったら裏切られることも当然想定しておくだろう。

 自分自身、人とどう付き合っているか。それほど広くない交友関係ではあるが、ある程度友達として親しく付き合う人に対しては、利害関係は無視して付き合いたいと思うのである・・・



【今週の読書】
 




 


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