2009年12月31日木曜日

現役

「年の瀬や 川の流れと 人の身は あした待たるる その宝船」
  宝井其角と赤穂浪士の大高源吾が交わした歌

年の瀬の「瀬」は、川が浅く流れが急なところを指す。一年のうちでもこの時期は急き立てられるように時間が経過する。昔の人は、急流を船で越すように、年の暮れを乗り越えるという感覚であったというが、それは現代でもあまり変わらないように思う・・・
****************************************************************

 工藤公康投手が現役続行を宣言し、横浜から西武へと移籍する事になった。古巣に復帰するわけであるが、かつて西武に在籍していた時はエースとして何度も優勝に貢献した。FAでダイエー、そしてジャイアンツと移り、3年間横浜に在籍した上での古巣復帰である。46歳、現役生活26年はこれまでの野村監督の記録を抜いて歴代最長である。

 さすがに横浜移籍以降は勝ち星も少なくなり、とうとう戦力外通知を受けた。それでも現役続行を宣言して西武に復帰である。行く先々で中心投手として活躍し、知名度も高くもうそうとう稼いだであろう。プロ野球選手は体力勝負。40歳を越えて現役でいる事は難しいだろう。西武に復帰してもエースどころか、中継ぎとかワンポイントリリーフとか、そんな脇役的なマウンドとなるだろう。なのになぜ現役を続けるのだろうか?

 確かな事は、お金や名誉や記録のためではないだろうという事だ。それらはもうみんな手にしているはずだ。体を気遣った食事メニューなんかも有名だし、そこには一日でも長くマウンドに立ち、一球でも多く投げようという強い意欲が伺える。たぶん野球がとことん好きなのだろう。

 引退したジャイアンツの桑田も最後はジャイアンツで勇退の道を断って、あえて投げる機会を求めてメジャーに挑戦した。全盛期の選手のような流行のメジャー行きではなく、ジャイアンツで投げる機会が与えられないまま引退していくのを避けるための悲痛なメジャー挑戦だった。残念ながら有終の美を飾るというわけにはいかなかったが、「まだ投げたい」という気持ちには感じるものがあった。

 サッカーの元日本代表、ゴン中山も戦力外通知にめげず、現役続行を宣言して格下のJ2チームに移籍した。すでに十分な実績と名声があるだろうし、辞めても食べていくことは十分可能だろう。あのキャラクターであれば、タレントとしてもやっていけるだろう。にもかかわらず、陽の当たらないJ2チームで新しいシーズンを迎える道を選んだ。それは金のためであるはずがない。やっぱりサッカーが好きで、まだまだやりたい、やれるという気持ちが強いのだろう。矢吹丈のようにまだ心の中で燃えきらない灰が燻っているのかもしれない。

 ずっと続けてきた事を、ただ好きだから続けたいという気持ちだけで努力を続ける姿には心打たれるものがある。工藤や中山のファンだったというわけではないが、やっぱり一日でも長く現役を続けられるように応援したいと思う。

 スポーツ選手に比べたら体力的な限界はないのかもしれないが、アーチストの中にもそういう人はいる。矢沢永吉は還暦を迎えてもなお、現役のロックンローラーを続けている。桑田佳祐はいまだに同世代のみか若者にも受ける新曲を出し続けてヒットチャートに君臨している。新日鉄釜石で一時代を築いたラグビーの松尾は、今はラグビーでは2流の成城大学の監督をやりながら日本のラグビー界を底辺で支えている。

 工藤に現役最長記録を抜かれるまではずっと記録保持者だった野村監督の現役時代の座右の銘は「生涯一捕手」だった。自分はずっと一人のプレーヤーだというアイデンティティーをもって現役を続ける姿は見習いたいと思う。自分にはそんな一流の何かがあるわけではないが、気持ちだけはそういうつもりでいたいのだ。

 慌しい年の瀬。日付が変われば新しい年が明け、気がつけばいつもの日常生活。日々の生活の中に流される事なく、来年も何か心に残るような事を一つでも多く残したいと思うのである・・・


【本日の読書】
なし


     

0 件のコメント:

コメントを投稿