2009年12月28日月曜日

ライバル2

 受験の時に久しぶりに会った彼であるが、まったく変わっていなかった。お互いの嗜好も合わないまま。当時私はアントニオ猪木と新日本プロレスのストロングスタイルのプロレスが好きであったが、彼は全日本プロレスの天龍源一郎のファンだった。私は天龍のドンくさいプロレスは嫌いだった。

 一緒に受験し、一緒に合格発表を見に行った。受かるかどうか不安だったが、かと言って別々に行くのも逃げているようで嫌だったのだ。合格発表を見に行く道中、彼は自分は落ちると思っていて、浪人に備えて準備していると私に語った。ラジオ講座のテキストを買い、家で勉強しながらバイトもして、毎月2万円家に入れるのだと、そんな計画だった(私はといえば、その時自分だけ受かったら彼に何と慰めの言葉をかけたらよいだろうかと考えていたのである・・・)。彼は家があまり豊かではなく、したがって受験は国立のみ、予備校なんてとんでもないといった具合だったが、その点では彼も偉かったのだ。

 合格して飛び上がって喜ぶ彼の横で、私は掲示板を隅々まで探したが、自分の受験番号は見つけられなかった。屈辱的だったがオメオメ帰るのも癪だから合格手続きに付き合った。1年くらいの遅れはどうって事はない、来年受かれば良いのだ、そう自分に言い聞かせた。

 だが問題があった。予備校に行って受かっても、それはむしろ当然で、彼に追いついた事にはならない。彼がやろうとしていたのと同じ条件で受からないと・・・それで帰りの電車の中で、私は彼に自分も予備校には行かないと宅浪宣言した。彼は浪人生活に備えて自分が買っておいたテキスト一式を、その日のうちに私の家に届けてくれた。

 親や親戚はなぜ予備校に行かないのか、としつこく聞いてきた。私は浪人生は現役よりも遥かに使える時間が多い事、勉強するのも受験科目だけで良いこと、したがって現役生より有利であり問題はない、と論理的に答えていたが、本当のところは彼に負けたくなかったからなのだ。とはいえ、さすがに家に2万円入れるのは困難だったからやれなかったが・・・そして翌年、私は宣言通り彼に1年遅れて志望大学に合格した。

 彼は目標に向って猪突猛進するタイプである。弁護士になるのが目標で、脇目も振らず勉強して弁護士になった。同じ目標を立てて、同じ法学部で学んでいたが、私は法律と肌があわず、方向転換して金融の世界へ進んだ。法律は言ってみれば私にとっては「長距離走」と同じで、自分が生きるフィールドではないと判断したので、それは問題ない。

 あとはどれだけ充実した人生を送るか、だ。大学時代はそれなりに勉強したし、何よりラグビー部に入って世界が広がった。彼の4年間よりは充実していたはずだ。彼はまったくの奥手だから、女の子と付き合った経験だってこちらの方が上だろう(もっともフラれたのをマイナスとカウントするとトータルでは惨敗してしまうが、プラス面だけ比較することにする)。

 収入面では劣るかもしれないが、子供はうちの子の方が絶対可愛いだろうし、仕事面の充実振りや、仕事以外での世界の広がりでも負けていないだろう。もう10年以上会っていないが、いつか会った時にこの充実振りを見せつけてやるのだ。特急電車の如く人生を送るあいつに、各駅停車ながらも一駅一駅で人生を楽しむ姿をみせてやりたいと思うのだ。まだまだ負けるわけにはいかない。そのためにも来年もより一層心豊かに楽しく過ごそうと、そんな風に思うのだ。

 もうまもなく、あいつからまた味気ない年賀状が届くはずだ。それを凌駕する明るい年賀状を送りつけないといけない。今年は遅れをとったが、これからやるとしようと思うのである・・・


【本日の読書】
「よくわかる経営分析」高田直芳
「ストロベリー・フィールズ」小池真理子
     

     

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