【原文】
顏淵喟然歎曰、仰之彌高、鑽之彌堅。瞻之在前、忽焉在後。夫子循循然善誘人。博我以文、約我以禮。欲罷不能。旣竭吾才。如有所立卓爾。雖欲從之、末由也已。
【読み下し】
顔淵、喟然として歎じて曰く、之を仰げば弥〻高く、之を鑚れば弥〻堅し。之を瞻れば前に在り、忽焉として後に在り。夫子、循循然として善く人を誘う。我を博むるに文を以てし、我を約するに礼を以てす。罷めんと欲すれども能わず。既に吾が才を竭くせり。立つ所有りて卓爾たるが如し。之に従わんと欲すと雖も、由る末きのみ。
【訳】
顔淵がため息をつきながら讃嘆していった。「先生の徳は高山のようなものだ。仰げば仰ぐほど高い。先生の信念は金石のようなものだ。鑚れば鑚るほど堅い。捕捉しがたいのは先生の高遠な道だ。前にあるかと思うと、たちまち後ろにある。先生は順序を立てて、一歩一歩とわれわれを導き、われわれの知識をひろめるには各種の典籍、文物制度をもってせられ、われわれの行動を規制するには礼をもってせられる。私はそのご指導の精妙さに魅せられて、やめようとしてもやめることができず、今日まで私の才能のかぎりをつくして努力して来た。そして今では、どうやら先生の道の本体をはっきり眼の前に見ることができるような気がする。しかし、いざそれに追いついてとらえようとすると、やはりどうにもならない」
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孔子は2,500年ほど前に生きていた人物であるが、論語はその言行を弟子たちがまとめたものである。それは現代にも残って読み継がれており、孔子という人物が偉大な人物であったことは間違いない。その後も偉人はいろいろと歴史に登場しているが、歴史に埋もれることなく残っているのはすごいことだと思う。我が国でも孔子のような思想系に影響するの偉人を輩出しているが、幕末から明治初期に多いように思う。吉田松陰や福沢諭吉、渋沢栄一、二宮尊徳などである。それらの偉人はなぜ今も受け継がれて世に広まっているのだろう。
その最大の理由は、その考えが陳腐化しておらずに今でも通用するからと言える。人生の真理はそうそう変わるものではないから不思議ではないが、それだけではなく、「神格化」もあると思う。亡くなってしまった人の言行はもうリニューアルすることはない。うっかりした失言で炎上することもない。もちろん、人間だから負の部分もあっただろうが、時間が経つとそういうものは消失してしまう。そうすると否定できない真理だけが後に残る。偉大な師匠の教えとして。
弟子としては、師匠を超えるというのは僭越なこと。これがスポーツであれば、記録という形で明確に超えることができる。しかし、思想的なものはそうはいかない。それに「師匠を超えた」などと公言すれば反発を買うだろうから、勢い謙虚になる。すると後に続く者はもう誰も師匠を超えられなくなる。もちろん、それはそれで自分なりに師匠とは別の人生の真理を説いてそれが受け入れられれば、師匠に続く師匠として名を残すことはあるだろう。それが今に残るもう一つの理由であるように思う。
考えてみれば、吉田松陰などは29歳でこの世を去っている。幕末の激動期にあって高い志を持って幕末の志士を指導したのは事実であるが、29歳の若者の思想である。成熟度もまだまだであるし、生きていればもっとはるかに大きな影響を残したであろう。高い志と熱き思いは、年齢に限らず人に影響を与えるものであるから、現代の安定した社会でのほほんと生きているサラリーマンなどは、たとえ100年生きても追いつけぬ境地であるとも言える。
つまり、そうした根本にある確たる信念が言葉になり、後に残る。同じような心に熱いものを持った人間ならそれ以上のものを生み出す事も可能だろう。師匠を尊敬するのは弟子として当然であるが、それが行き過ぎると神格化につながり、師匠の言葉を伝えるのが自分の役割であるかのようになってしまう。そうなるとそれ以上の成長はなくなってしまう。師匠を道標とすることはいいと思うが、そこが到達点、あるいは永久に到達できないところとしてしまうと、それ以上の進歩はなくなる。
しかしながら、一方で「師匠を超えた」と考えるのはどうかと思う。それは驕りであり、傲慢でもある。目の前の人参ではないが、「自分はまだまだ」という謙虚な心が継続的な努力を生む。師匠の熱き思いと弟子の謙虚な心とが相まって、後世にその言行が伝えられる理由になるのだと思う。変な神格化は良くないと思うが、目指すべき道標として永遠に後を追う気持ちでいるのは正しい姿勢であると思う。そんな師匠を持てたということは、それだけでも幸せなことだと言えると思うのである・・・
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Mohamed HassanによるPixabayからの画像 |
【今週の読書】




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