2024年5月15日水曜日

論語雑感 述而篇第七(その36)

論語を読んで感じたこと。解釈ではなくあくまでも雑感
【原文】
子曰、君子坦蕩蕩。小人長戚戚。
【読み下し】
子(し)曰(いわ)く、君(くん)子(し)は坦(たん)として蕩蕩(とうとう)たり。小(しょう)人(じん)は長(とこ)しなえに戚戚(せきせき)たり。
【訳】
先師がいわれた。
「君子は気持がいつも平和でのびのびとしている。小人はいつもびくびくして何かにおびえている」
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 「のびのびしている」のか「びくびくしている」のかは微妙なところであるが、ふと思いついたのは、上司としての怒る姿勢である。そこに「ゆとり」を感じるかどうか、感じさせるかどうかはその上司の持つ力量のように思う。怒られる立場に立った時、その違いはかなり大きなものがある。問題が生じた時、必要なのはまずその問題の解決である。次に原因究明と再発防止。その問題がなぜ生じたのか、同じ問題が起こらないようにするには何が必要なのか。そして、その原因が人にあるならば、再発防止策の中には本人の意識づけも含まれる。

 かつて勤務していた支店で、後輩から聞いた話である。その時、私は既に転勤してその支店を離れていたが、私の後任の主任がトラブルの処理に苦しんでいるという話であった。本来であれば、ただちに上司に報告して対応策の指示を仰ぐところであるが、その上司はただ怒るだけで、「俺は知らん」とそっぽを向いてしまうのだとか。さらにネチネチと小言を言われ続けるので、精神的な負担と時間をロスすることに対する気後れから上司に報告できないのだと言う。

 私はそういう上司にあたった事はないが、「困った、困った」と言うだけで、なかなか結論を下してくれない人はいた。一方、やたら厳しかったが、トラブル時には速やかに解決に動き、あとでがっつり怒るタイプもいた。どういうタイプが印象に残っているかと言うと、とある支店長に「そういう考え方だと困る」と静かに怒られた事だろうか。普段から穏やかな支店長であったが、私の取った行動について声を荒げるでもなく、静かにそう言われたのである。静かゆえにインパクトが大きく、今でも記憶に残っている。

 部下がミスをして頭に血が上る時、それをどう表すかはその人の人間性なのだろう。順番的にはまず問題の解決であり、怒るのは問題が解決したあと(せめて対応策が決まったあと)だろう。それをさておき、「俺は知らん」などというのは上司として無責任。怒るにしても、大事なのは本人の反省であり、反発を招くような怒り方は効果がない。面白くない気持ちを爆発させるのは、上司の精神にとってはいいかもしれないが、組織としては何も得るものはない。

 仕事である以上、問題に際してどういう怒り方をするか、は重要であろう。その上司が人格者(=君子)なのかどうかは、その怒り方に表れるように思う。報告すれば問題が解決するどころか、ネチネチ小言を言われるだけで時間を浪費して問題解決にならないとなればよけいに報告できなくなる。問題が起きているのに報告が上がってこないというのは、それだけで問題である。上司としては、その状態こそ恐れるべきではないかと思う。

 今は、パワハラという言葉が浸透し、世の中の上司は怒りにくくなっているだろう。だから「怒らない」のではなく、「効果的な怒り方」を工夫しなければならないと思う。「怒る=怒鳴る」ではない。私を叱った支店長のように、静かな物言いの中にも迫力があれば響くのである。怒鳴られても心に響くどころか、人によっては心に蓋をして嵐が通り過ぎるのをただ我慢して待つという方向に動くだろう。

 上司であれば怒るのも時として仕事になる。そして仕事であればその効果を考えないといけない。効果とは本人の反省であり、それも二度と起こさないように自ら考える反省である。さらに上司として日頃のリスク管理が大事であり、それは問題が起こったらただちに報告が上がる体制作りである。問題は早くわかれば早い方がいい。傷口が広がらないうちであれば解決の手間も少なくて済んだりする。そしてそれは、ただ「問題が発生したらすぐに報告しろ」というだけではなく、報告しやすい環境も作らないといけない。

 今は私も上司として部下の仕事の管理をする立場である。何かミスがあっても、まず指示するのはその解決方法であり、それも自ら動くようにしている。もし指導が必要であれば、問題解決の目途がついた段階で、こっそり呼び出してしっかり教え諭すだろう(幸い、今の会社にきてそのような事態はない)。怒鳴らなくても、人は筋の通った意見ならしっかりと聞いてくれるだろう。怒鳴るのも性に合わないし、そういうやり方をしようと思う。

 君子であるかどうかは別として、怒鳴るだけの上司はやはり器の小ささを感じてしまう。器が小さいゆえに、部下のミスに際してドンと構えられない。キーキーと反応してしまうのであろう。器の小さい上司に仕えるのは、仕える方も辛いものである。そういう事がわかってきた今、器の小さい「小人上司」にならないように心掛けたいと思うのである・・・


【本日の読書】

夫婦の壁(小学館新書) - 黒川伊保子  安倍晋三 回顧録 - 安倍晋三, 橋本五郎, 尾山宏, 北村滋




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