2023年9月3日日曜日

最低賃金に思う

最低賃金「30年代半ばに1500円」 首相表明

 岸田文雄首相は31日、最低賃金について「2030年代半ばまでに全国平均が1500円となることを目指す」と表明した。最低賃金は10月から平均1004円に上がるものの、主要国に比べ水準はなお低い。物価高で消費は弱含んでおり、賃上げ持続で内需主導の成長を促す。

日本経済新聞2023.8.31

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 政府が2030年代半ばまでに最低賃金の全国平均を1,500円となることを目指すと表明し、それについてさまざまな意見が飛び交っている。例えば「X」では、ちきりん氏が、

《現時点での他の先進国の賃金より低い時給を10年後の達成目標にするなんて、本当に日本て余裕があるというか呑気というかスピード間の欠如した国というか、腰が抜けそう》

と酷評しているほか、批判の意見も多いようである。ちなみに、202314月の為替相場で各国の最低賃金を比較すると、日本は961円で最低レベル。ドイツ・フランス1,386円、イギリス1,131円で、日本は韓国の991円よりも下回っており、オーストラリアは71日から時給2,230円に引き上げているという。


 これに対してどう考えるべきなのであろうか。確かに単純比較ではわが国の賃金の低さが際立っている。ちきりん氏はかなり思考能力が高く、さまざまな情報を元に鋭い意見を表明していて、私も著書を何冊も読んでいるが、果たして公平に比較している意見なのだろうかと思う。例えば、各国の失業率を見ると、日本の2.80に対し、ドイツ3.57、フランス7.86、イギリス4.83、韓国3.64、オーストラリア5.12といずれも日本より高い。いくら最低賃金が高くても、そもそも就職できなかったら意味はない。


 それに気になるのは物価水準。例えば、ロンドンは物価が高いと言われている。ランチ代の平均は、日本の1,118円に対して2,511円だそうである。ニューヨークも似たようなものだと以前テレビでやっていたし、それがすべてとは言わないが、そういう物価も考慮に入れないと本当に日本の賃金が安いのかどうか(安いとしてもそれが問題なのか)は一概に言えないのではないかと思う。外国とだけではなく、国内でも同様。以前、長野県に住む従兄弟と話したが、東京は賃金が高いとは言え、生活コストの高さを考えるとどちらがいいかわからない。

 

 従兄弟は長野県の佐久市で働いている。給料は、たぶん私の方が高い。しかし、土地の単価は東京と佐久市とでは一桁違い、私は30坪の家に住んでいるが、従兄弟の家は100坪で住宅ローンもない。夜な夜なスナックに行くお小遣いも私よりある。まぁ、1,500円は全国平均だから、当然、東京の最低賃金は長野県よりも高いだろう。そこは目をつぶるとしても、賃金と物価とを併せて比較議論しないと公平な議論にはならない。私も給料が上がるのは嬉しいが、今なんとか苦心してワンコインに抑えているランチ代が上がるのならあまり意味はないと考える。


 また、中小企業経営の立場から考えると、ここも苦しいところがある。今年はまた最低賃金が引き上げられ、東京都は1,113円になるが、我が社の初任給の一部がこれに引っ掛かり、来年の専門学校卒の初任給の一部を引き上げざるを得なくなった。社員の給料はなるべく高くと思うが、それには収益力が伴わないといけない。社員を低賃金で働かせるつもりは毛頭ないが、毎年昇給を実施していくためには収益力も上げないといけない。しかし、経営環境は厳しく、それは簡単ではない。一つの指標だけを取り上げてどうこうという議論には違和感を禁じ得ない。


 私が銀行員になった1988年の初任給は確か128,000円だったが、2022年は205,000円である。失われた20年とか言われているが、初任給ほど物価は上がっていないような気がする。若手時代は土日の昼飯はよく吉野家の牛丼の大盛りを食べていたが、当時は確か500円だったように思う。なんとなく、ではあるが、賃金は「相対的に」それなりに伸びているように思えてならない。政府は最低賃金だけを目標にするのではなく、「物価の抑制と併せて」、最低賃金の引き上げを目標にしてもらいたいと思う。その時大事なのは、諸外国と比べてどうかという事ではなく、あくまで国内の生活実感としてどうかである。


 中小企業の経営の立場としては、もちろん、最低賃金以上の給料を払うのは当然の事。少しでも多くなるようにしていきたいところ。最低賃金はあくまで「最低」、業界平均を上回れるよう、頑張っていかないといけないと思うのである・・・



Peter StanicによるPixabayからの画像


【本日の読書】

  


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