2024年12月15日日曜日

論語雑感 泰伯第八 (その14)

論語を読んで感じたこと。解釈ではなくあくまでも雑感
【原文】
子曰、不在其位、不謀其政。
【読み下し】
子(し)曰(いわ)く、其(そ)の位(くらい)に在(あ)らざれば、其(そ)の政(まつりごと)を謀(はか)らず。
【訳】
先師がいわれた。「その地位にいなくて、みだりにその職務のことに口出しすべきではない」
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「その地位にいなくて、みだりにその職務のことに口出しすべきではない」と言うのは、たぶんその職務には外からは窺い知れない苦労があるのであって、そうした苦労を知らない者が安易に口を出すべきではないという事であろうと思う。私も過去にそれで苦い経験をした事がある。銀行員時代に直属の上司の上司である部長から顧客との事務手続きについて横槍が入り、やむなく部長の指示に従ったところ顧客との間にトラブルが生じたのである。

部長としては正しい指示だと思ったのであろうが、「実務上」は簡略なやり方があるのであるが、部長自身にそれを理解していただけなかったのである。事務手続き規定にも認められているやり方だったので、もっと私が丁寧に説明すれば良かったのであるが、安易に従ったばかりに顧客とトラブルになったのである。もっとも変わった顧客でクレーマーの要素が大だったという要因もある。今思い起こしても無念である。

また、同じく銀行員時代、支店の住宅ローンの担当者だった時の事であるが、ある案件で審査を通すのが難しいと判断して事前相談の段階でお断りした事があった。ところがそれは不動産業者を通じて相談があったもので、業者の担当者はなんとかならないかと上司を通じて私の上司に話を持ち込んだ。優良取引先の依頼だった事もあり、私の上司はそれを受け、「何とか審査と相談して承認してもらえ」と私に命じたのである。

住宅ローンの審査はある程度定型的なもので、何とかしようとしても何とかなる要素は小さい。私はそのあたりに精通していたので、「無理だ」と抵抗したのであるが、上司は何とかしろの一点張り。私も何とか頑張ったが、結果的にはダメ。ところがその間、時間が経過した事もあり、今度は今更断られても困る(他の銀行に行くには遅すぎる)とクレームになった。上司はお詫びしつつ、私と一緒に顧客に謝りに行く事になった。私が時間をかけ過ぎて遅くなったというお詫びになったが、実に理不尽な結果であった。

知らない事には口を出さないでほしいというのは真実であるが、現職にあってみればそうとも言い切れない。半年ほど前のことであるが、現場でトラブルが生じたのであるが、責任者の対応は今一つであった。見かねて私が口出しをしたが、明らかに責任者は迷惑顔であった。しかし、私も取締役である以上、トラブルが拡大する事態は避けないといけない。そこで部門の問題から格上げして役員会に問題を上げて全社ベースで対応する事とした。

それでも結果的に赤字プロジェクトとなってしまったが、最悪の事態は回避できた。私が介入していなかったら(現場の事ゆえに門外の私に解決策は持ち得なかったが、全社ベースでの対応にした事は良かったと思う)、もしかしたら赤字だけでは済まずに損害賠償という話にまで発展していた可能性はある。他人の領域でも時と場合によっては口出しする必要があるという例だと言える。

では、口出しはいいのか悪いのか。思うに、「不在其位(その地位にいなくて)」という言葉に注目すると、取締役という立場は全社ベースで問題に対応しなければならない立場だとすれば、「在其位(その地位にある)」と言える。そう考えればやはり孔子の言葉通りなのかもしれない。まぁ、言葉通りなのかそうでないのかというよりも、やはり口出しするときは自分自身きちんと責任感は持って行いたいと思う。相手を尊重しつつ、責任感を持ってやるのであればいいのではないかと思うのである・・・


Kristin BaldeschwilerによるPixabayからの画像


【本日の読書】
避けられた戦争 --一九二〇年代・日本の選択 (ちくま新書) - 油井 大三郎 あなたが誰かを殺した 東野圭吾






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