【原文】
子曰、「自行束脩以上、吾未嘗無誨焉。」
【読み下し】
子曰く、
束みて脩を行ふに自るを以ゐる上は、
吾未だ嘗て誨ふること無くんばあらざる焉。
【訳】
先師がいわれた。
「かりそめにも束脩(そくしゅう)をおさめて教えを乞うて来たからには、私はその人をなまけさしてはおかない。」
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「束脩」とは、「入学・入門の際に弟子・生徒が師匠に対して納めた金銭や飲食物」のことであり、「脩」とは、元は干し肉の束10組のことを指し、古代中国において入学・入門時に師匠に謝礼として納めた風習があったという事らしい。現代風に言えば「入学金」という事であろうか。そうした「入学金」を払った生徒に対し、「怠けさせない」というのはある意味では当然とも言えるが、そうも言えないところもあるかもしれない。
そもそもであるが、お金を払って教えを請う訳であるから、生徒の方がむしろ怠けないものであるべきである。そうでなければお金を払う意味などない。払った以上に吸収しようと貪欲に思っても当然であると思う。私などはそう考えるクチである。それゆえに先生に「怠けさせておかない」などと言わせないと思ってしまう。逆に先生の方からしたら、お金をもらっている以上、教えはするが、その程度も本人次第とするもののようにも思う。
そんなことを考えていると、思い出すのは学生時代の家庭教師のアルバイトである。卒業する先輩から紹介されて引き継いだのは歯医者の息子。典型的なお金持ちのボンボンである。そして絵に描いたように勉強が好きではない。けれど、当然「お世継ぎ」の立場にあるわけで、親としてはお金をかけてでも勉強ができるようにしたいと思うものだろう。それを裏付けるが如く、アルバイト料は破格であった。時給は当時家庭教師紹介センター経由のバイト料の2倍超であった。
週2回の割合で歯医者の医院と一体になったご自宅を訪問し、私の家の部屋よりも広い勉強部屋で勉強を教えた。何を教えて欲しいかは本人の選択。当時は数学が中心だった。しかし、教え始めて間もなく、ご本人にやる気がないのが手に取るようにわかった。こちらが熱心に教えてもどうにも身が入っていない。初めは私も破格のバイト料に応えるべく熱心にやったが、やがてバカらしくなってしまった。まるでシーシュポスの気分だったのである。
そのうち、適当にやるようになってしまった。準備なんかも当然しなくなった。途中で休憩時間に差し入れられるケーキを楽しみに行っていたと言っても過言ではない。幸いにもなんとかそこそこの高校に合格し、感謝されてしまったが、当時の私には孔子のような立派な考えはなかったのである。今ならどうだろうか。おそらく、やるからには全力を尽くすだろう。相手にその気がなければその気にさせるだけである。まずは勉強よりもいろいろな話をするところから始めるだろう。「なぜ勉強するのか」とか、「勉強したいかどうか」とか。
まずは勉強する土台造りから始めないとと思う。そして成績もずっと上がるようにやり切ると思う。お金をもらう以上、結果にこだわって「怠けさせない」のではなく、極端に言えば「怠けても結果を出す」ようにである。それは35年の間に身につけた「プロ意識」かもしれない。「お金をもらう以上、何としてでも結果を出す」という意識である。当時の自分にはなく、今の自分にあるのはそういうプロ意識。今にして思えば、あの子には申し訳なかったと思う(一応、希望していた高校の一つには合格できたのだが・・・)。
お金をもらう以上、たとえそれが少額であったとしても、きちんと結果を出すのがプロである。そう言うと、「自分はプロではない」という言い訳をする人がいるかもしれないが、ここで私の言うプロは、「お金をもらって仕事をする人」である。そういう意味で、アルバイトでもパートでもプロである。お金をもらう以上は成果を上げないといけない。金額に不満があるのなら最初にきちんと交渉し、嫌なら断ればいい。嫌々ながらでも引き受けた以上はベストを尽くすのが、お金をもらう上での義務である。
ビジネスマンであれば、給料に不満を言うのは筋ではない。もらう以上はいくらであろうと成果を出すのが当然であり、不満があるなら堂々と成果を挙げた上でそれを主張して上げて貰えば良い。上げてくれないのであればそこを去ればいい。去れないのであればそれが己の稼ぐ力の限界なのであり、納得するしかない。不満タラタラでベストを尽くさないのは、そもそもそういう価値しかない人間だとしか言いようがない。
「束脩」を得たならば、己を怠けさせない人間でなければいけないと思うのである・・・
PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】
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