30歳の時に休煙して以来、ほとんどタバコを吸わずにきているし、それゆえにタバコを買うこともなかったが、昨日本当に久しぶりにタバコを購入した。銘柄は以前愛煙していたマルボロである。最近は電子タバコなるものが流行っているが、やはり紙のタバコが1番と感じる。おおよそ四半世紀の間に、いつの間にか一箱570円と、記憶にある値段の2倍以上になっていた。そして吸い込んだ紫煙は肺に染み入るが如くで、体に悪そうなことこの上なかったが、同時にそれが心地よさをもたらしたのも確かである。
なぜ突然タバコを吸いたくなったのかと言えば、それはやはりストレスかもしれない。ここのところ心を煩わせる問題が頻発していて、精神的にもかなり疲弊していると感じている。泣き言を言うつもりはないが、嗜好品は酒であろうとタバコであろうと精神を弛緩させる作用があるのだろう。なんとなくリラックスした気分になれる。多少体に悪くとも、ストレスだって体には良くないだろうし、薬だって病気には効くかもしれないが体に副作用をもたらすものもあることを考えると、それでストレスが緩和されるのであればいいだろうと思う。
それにしても、翻ってみると過去10年以上にわたってなんらかの形で悩みや苦悩は絶えなかったように思う。結婚してからは、両親と妻との関係に煩わされたし、子供のアトピーの心配や、いじめや登校難、己の金銭問題や転職問題、会社の業績などなど苦悩が次から次へと現れてきたように思う。もっと心穏やかに暮らせないものかと思うが、そうはならない。どうして自分だけがずっと悩みを抱えて生きなければならないのだろうとグチりたくなるが、考えてみれば自分だけではなく、人は誰でもそうなのだろうと思う。ショーペンハウアーも「生きることは悩むことだ」と語ったと伝えられているくらいだから自分だけではないのであろう。
どうしたら苦悩など抱えることなく、心穏やかに暮らせるのだろうかと考えてみるもなかなか思い浮かばない。お金があればできるのだろうかと考えてみるも、お金があっても病気を抱え行動を制限されている人を見ればそれは安易な発想なのかもしれないと思う。お金があれば不幸は追い払うことはできても、幸福を手に入れることができるとは確実には言いがたい。「これがあれば大丈夫」というものはどうもありそうな気がしない。結局、どんな立場の人であっても、それなりの苦悩は避けられないのかもしれない。
そう考えると、苦悩を避けるというよりも上手く同居していく方法はないかと考えるより他ないのかもしれない。ショーペンハウアーはまた、「幸せを数えたら、あなたはすぐ幸せになれる」という言葉も残している。苦悩ばかりが脳裏を占めるが、実は恵まれているところは当たり前すぎて意識の中にはない。たとえば私は結婚して子宝にも恵まれた。それが当たり前でない人もいるわけで、妊活に苦悩している人から見たら羨ましがられるだろう。健康診断の数値は危なっかしいが、それでも健康であるし、家には心臓移植を待つ子供もいない。両親はとりあえず健在だから親孝行もまだできる。ショーペンハウアーの言葉は真理である。
ショーペンハウアーの言葉に救われつつも、現実に己が直面する苦悩がなくなるわけではない。それはそれで上手く折り合いをつけるしかない。なくならないのであれば、あとは心の平穏をどう保つかという問題になる。考えてみれば、今の苦悩も、もしも一年後にハッピーエンドに終われば、なんだったのかということになる。突き詰めていくと、苦悩の正体は「不安」であるとも言える。「将来不幸になるかもしれない可能性に対する恐怖」である。それが自分自身のことだったらまだしも、家族も巻き込むことであれば心穏やかではいられない。
そうした「不安」に対してどう対処すればいいのだろうか。キルケゴール流に考えれば「可能性を与えれば、絶望者は息を吹き返し生き返る」となるのであろうか。キルケゴールは「絶望」という言葉を使ったが、「不安」と置き換えることもできる。あれこれ考えて不安に思うよりも、「こういう可能性を考えれば克服できる」と無理やり考えるのがいいのかもしれない。過去に心を塞いできたあれこれの問題もそう考えれば少しは緩和されたようにも思う。
過度の楽観は良くないかもしれないが、過度の悲観もまた同様。悩んでも仕方のないものは、悩むのと同じくらい明るい解決策を考えるのがいいのかもしれない。誰もが逃れられないものであれば、それに対する対応策を考えたい。それがいずれ同じような悩みを抱えるであろう子供達に対する手本になるかもしれない。それに当たっては、やはり他人を踏みにじるようなことはしないようにしたいと思う。今、ある意味信頼していた人による裏切にあったところであるがゆえに余計にそう思う。
「神に祈れ。だが岸に向かって漕ぐ手は休めるな」(ロシアの格言)ではないが、泥沼でもがき嘆きつつも、岸に向かってそれ以上に泳ぐ気概を持っていたいと思うのである・・・
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