2021年5月6日木曜日

立ち退き問題雑感

 品川区にある実家の一角は、数年前から道路拡張のため立ち退きを要請されている。しかし、実家の両親をはじめとして、ご近所には困惑している家が多いらしい。「年も年だし、今さらどこへ行けと言うのだ」というものである。中にはあからさまに反対の声を挙げているところもあり、先日実家に行くとその主張の張り紙があった。「不要な道路整備に使う3,000億円の税金を新型コロナ対策などの感染症対策に使え!」というものである。内容的には至極尤もであると思う。

 しかし、これを見ながらつらつらと考えてしまった。「理屈はその通りだろうが、たぶんお役所的には受け入れられない理屈なのだろうな」と。私には役所勤めの経験はなく、したがってお役所の理屈などわかろうはずもないが想像はできる。たぶん、このもっともな主張に対する回答は、「予算が違う」というものであろう。道路整備と新型コロナ感染症対策とでは予算が違う。国の予算はあらかじめ決められた通りにしか使えない。だから「あっちのお金をやめてこっちに」とはいかないだろう。

 そもそも国の税金はみんなが納めた血税であるから好き勝手には使えない。あらかじめ予算を決め、国会の承認を得て使途が決められるものである。したがって、道路整備に使うといって許可を得たお金をコロナ対策には使えないだろう。もしも使うとすれば、道路整備の予算を減らして新型コロナ感染症対策の予算を増やすという作業が必要になるに違いない。それは言葉では簡単だが、実際の承認手続きとなれば膨大かつ面倒な事務作業がかかるに違いない。

 その昔、宿泊を伴う出張の際、一泊いくらという金額が決められていた。実際の金額ではなく、一律の金額が支給されるのである。それを上回る宿泊費がかかれば差額は自腹であるが、下回ればお釣りが出る。となればみんな安い宿に泊まろうとするのは人情である。ある半官半民組織に出向していた時は、出張旅費は正規の価格で請求し、実際は格安チケットで差額をポケットに入れている人たちがいた(私は断れない時=一緒に行く時以外はやらなかった)が、個人であればそんな工夫をしたりするのである。

 しかし、国の予算の場合は差額をポケットに入れるなど到底許されない(もっとも警察などでは裏金づくりなんかが行われていた時もあったようであるが・・・)。差額が出れば次の予算を減らされてしまうから、年度末に予算の駆け込み使用があると聞いたことがある。当然、余らせて他に使うということができない。素人考えではあるが、個人的には差額を次年度に繰り越すことが認められたら、税金の使われ方ももっと効率的になるような気もする。しかし、現行ではそうはいかないのだろう。

 「不要な」というのも、実に曖昧である。最近ではコロナ対策で「不要不急」という使われ方をしているが、外出する人にはそれなりの「必要」があるわけで、解釈の仕方次第でなんとでもなる言葉である。もちろん、「道路が必要な理由」の説明を求めたら、いくらでも流暢に説明してくれるだろう。ただ、それは立ち退きを求められている住民からしたらどうでもいい「不要」な理由にしかならないだろう。面白いものだと思う。

 実家の張り紙も「道路問題しながわ連絡会」なる名称がつけられているが、どういう人たちが組織しているのかも興味深いところ。共産党の人が随分話をして回っていたようであるから、もしかしたらその手の人たちが中心にいるのかもしれない。そうすると、本当に立ち退きを迫られている住民の人たちの味方なのかどうかも微妙な気がする。政権攻撃に忙しい共産党であるから、もしかしたら何らかの自分たちの政治的意図に基づいてやっているのかもしれない。

 「立ち退けと言ってもどこへ行けばいいのか」という不安に両親は駆られている。しかし、国の事業というのは一方で「時間がかかる」という特徴もある。私としては、「しばらく放っておいて大丈夫」と言っている。聞けば契約したら2年以内に立ち退いてほしいということだったから、まず契約を引っ張るということができる。年寄りである事を逆手に取れば、ダラダラ引き伸ばしが図れるだろう。折からのコロナ禍にあっては、余計に役所も何も言えないだろう。そうこうするうちに、いざ立ち退きという時には、老い先短い両親は十分に慣れ親しんだ家で暮らし、この世にいなくなっているかもしれない。

 それにしても、現在根拠となっている道路計画は、戦後間もなく策定されたものだという。両親が今の家を買ったのが40年前で、その時「道路計画予定地」になっていることの説明を受けている。そんな古臭い計画をようやくやろうとする役所の根性も大したものだと思う。たぶん、計画が完成するまであと50年くらいかかるかもしれない。その時は、両親どころか私も新しい道路を目にすることはできないだろう。まさに国家百年の計とも言える。

 国家事業の良し悪しを論ずるつもりはないが、まぁ気長に見守っていきたいと思うのである・・・


【本日の読書】
 



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