子夏曰。賢賢易色。事父母能竭其力。事君能致其身。與朋友交。言而有信。雖曰未學。吾必謂之學矣。
子夏曰く、賢を賢として色を易え、父母に事えては能く其の力を竭し、君に事えて能く其の身を致し、朋友と交わり、言いて信有らば、未だ学ばずと曰うと雖も、吾は必ず之を学びたりと謂わん。
<訳>子夏がいった。美人を慕うかわりに賢者を慕い、父母に仕えて力のあらんかぎりをつくし、君に仕えて一身の安危を省みず、朋友と交って片言隻句も信義にたがうことがないならば、かりにその人が世間にいわゆる無学の人であっても、私は断乎としてその人を学者と呼ぶに躊躇しないであろう
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今回は孔子ではなく、その弟子の言葉。孔子も「その6」で似たようなことを述べている。「入りては則ち孝」、「出でては則ち弟」、「謹みて信あり」であるが、いずれも同じような内容である。まぁ、弟子であれば師匠と同じことを自分の弟子に語るのは当然の事なので、不思議な事ではない。というより、むしろこれが孔子を頂点とするグループの一貫した教えだという証であろう。ここではさらに、主君に対して身を挺して仕える(『事君能致其身』)が加わっている。
面白いのは、『賢賢易色』であろう。「美人よりも賢者」を慕えという内容のようなのであるが、「賢者を慕え」はわかるが、「美人よりも」という例えが考えてみれば面白い。比較の対象が「愚者」ではあまりにもありきたりだと考えたのであろうか、それとも若者相手ではその方がインパクトが強いと判断したのだろうか。当時も、というかいつの時代もやはり若者の関心は、女性であるということなのだろうか。そして、これがイケメンではないということは、やはり学問するのは男だったからなのだろうかと思ってみたりする。
さらには、その価値観だ。「親に従う」、「君子に支える」とは、いずれも権威ある人に従えという内容だ。愛読書である『逆説の日本史』シリーズでは、儒教・朱子学の悪影響を説いている。曰く、無条件に祖法を絶対視するため、幕末では鎖国政策絶対や攘夷思想の元になり、朝鮮半島では近代化が大きく遅れる原因となったと。その歴史上の解釈はともかくとして、やはりある程度権威を否定する余地がないと、特に組織の成長は期待できないであろう。あるいは孔子も、単に長幼の序だけを説いていたのであり、そこまで求めてはいなかったのかもしれない。個人的には、長幼の序は大切にしたいと思うが、それ以上のものはかえって弊害になるだけだと思う。議論を通じて否定できるものはやはり必要だと思うのである。
友人に対する誠意誠実はまったく異論はない。真の友人と言える友人は、私にはたくさんいないが、それでも数少ない友人は心から信頼できるし、また信頼してほしいと思う。それには裏表なく接したいと思うし、学生時代の友人などは、現在の社会的地位に関係なく昔のままの関係で付き合いたいと思う。そういう関係を保つには、日頃から常に素のままで接することが大事だろう。嘘や裏切りは当然ありえない。
そういう友情関係にヒビが入るとしたら、何であろうかと考えてみる。やはり金か女かもしれない。例えばお金を貸してくれと言われたらどうするべきか。これは元銀行員としては簡単である。すなわち、「返してくれなくてもいいと思える金額を貸し、貸したら忘れる」である。私ならそれこそ正直にいくらなら貸せると言い、足りない分は親身になって問題が解決するまで知恵を出すだろう。
そもそもであるが、金の貸し借りに関するトラブルは、「返してもらいたいのに返してもらえない」というものだ。友人にいい顔したい、あるいは断れないとして無理に貸すからいけないのである。「これが返してもらえなかったらどうなるか」貸す時点でわかるはずだから、返してもらえなくても良いと思ったら貸せばいいし、そうでないなら何と言われようと断るしかない。それで友情関係にヒビが入るなら、もともとそこまでの関係ということ。友情と金とを両方失うより、せめて金だけは守れるだろう。
女も簡単だ。互いに一人の女性を争ったなら、負けても素直に祝福することだ。悔しいかもしれないが、他の誰かよりは心を許せる友人の方がいいと私は思う。ただ自分が選ばれてしまった場合は複雑だ。友が祝福してくれなかったらという心配はある。その場合は、友を信じるしかないのかもしれない。
いずれにせよ、こうした対人関係がどんな学問よりも大事だと最後に子夏は説く。それはやはりそうなのだろうと思う。この世の中は、人と人との関わり合いによって成り立っているわけであり、その内容については諸々あるかもしれないが、根本はそうであり、それができている人を評価するというところは、まったく同意するところである・・・
【本日の読書】
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