2024年3月15日金曜日

採用の現場にて(その2)

 いよいよ2025年卒の採用活動が始まっている。私も採用担当者として地方出張に飛び回っている。地元首都圏ではなかなか我々のような中小企業は学生さんに選んでもらい難い。「目に留まらない」と言った方が正確かもしれない。大手の企業がたくさんある中、知名度の低い我が社が割って入るのは難しいため、自然と地方に目を向けざるを得ないのである。今日も日本海側にある某大学で開催された企業合同会社説明会に行ってきたところである。

 体育館に集まった企業は約70社ほど。130分と区切られた中で、学生を招き入れて説明を行う。合計4回の説明で何人の学生を集められるか、そしてその内から何名面接、採用に進められるかである。説明会は2日間にわたって行われる。単純に約140社。これに約200人の学生が参加してくれた。もちろん、140社は企業の数が五万とある中のほんの一部である。140社の中から就職先を決める学生もいるだろうが、これ以外から選ぶ学生もいるだろう。

 我が身を振り返ってみると、こういう合同の企業説明会になど参加したことはない。もう35年ほど前になるが、当時の就職は。送られてきた就職情報誌の中から面白そうな企業を選んでハガキを出すと呼び出しが来て説明を受けに行ったものである。当時は超売り手市場で、私も一応名の通った大学だったから引く手数多。良い御身分であった。望めばどこでも就職できたのではないかと思う。それなのに十分に企業研究をして、数多の中から厳選したのかというと自信がない。リクルーターの先輩の話を聞いてなんとなくのイメージだけで銀行を選んでしまった感がある。

 そんな思いを抱きながら、我が社のブースに来ていただいた学生さんを見ていたら、果たしてどのくらい企業研究ができているのだろうかと思ってしまった。我が社の会社説明も嘘は言っていないが、十分とはとても言えない。そもそも僅か30分ではどう考えても十分できるとは思えない。入社したところ、「イメージと違う」というのはあると思う。だが、それは自分もそうだったし、所詮、学生の企業研究なんてその程度なのかもしれないとも思う。お見合いと同じで、縁あって話を聞いた企業に「えぃ、ヤァ!」で入るものなのかもしれないと思ってみたりする。

 思えば銀行に入った時、華やかな都心店配属を夢見ていた私は、八王子という郊外の支店に配属されていきなりイメージが狂った。融資係に配属されたものの、「JCBカードを獲得せよ」など訳のわからないノルマを課されて辟易した。先日も取引先の銀行の担当者が来て、頭を下げてJCBのプラチナカードを作ってくれと頼まれた。30年経っても変わらないのだと思わされたが、それは入る前に描いていたバラ色のビジネスマン生活にはカケラも入っていないものであった。そんな話は会社説明ではしないだろう。

 世に企業は数多あれど、すべてを調べ上げるのはなかなか大変である。上場企業だけでも4,000社以上あるし、中小企業を入れればその数は膨大である。結局のところ、「なんとなく」のイメージで業界を決め、何となくの縁でどこかの企業の話を聞き、担当者の言葉でなんとなく良さそうだと思い、熟考したつもりがほとんど「なんとなく」、「えい、ヤァ!」で決めるものなのかもしれない。あとは、入った後、その仕事に没頭し、「天職」だと思えれば幸せなのかもしれない。私も銀行業界、不動産業界、そして情報技術業界と渡り歩いてきたが、結局、「なんとなく」、「縁で」入ったものであるが、それで後悔のかけらもない。

 今は「一生の仕事」という概念も薄れているだろうが、それでも転職回数は採用とは反比例の関係にあるのは間違いない。貴重な社会人のスタートであるし、イメージとは違うことは避けられないとしても、せめてその時点で満足いく選択ができると良いなと学生を見ていて思った次第である。まだまだ採用戦線は始まったばかり。我々も選んでもらえるよう、精一杯頑張りたいと思うのである・・・



Niek VerlaanによるPixabayからの画像

【本日の読書】

世界一流エンジニアの思考法 (文春e-book) - 牛尾 剛  失われた時を求めて(3)――花咲く乙女たちのかげにI (岩波文庫) - プルースト, 吉川 一義






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