「投資は自己責任」であることは、前回述べた通りなのであるが、それにしても「銀行の審査」を一つの判断材料にしている人は多いように思う。「銀行が大丈夫だと判断して融資するのだから大丈夫だろう」と言うのは、一見もっともに思えるかもしれないが、「銀行の大丈夫」は借りる方の「大丈夫」とはちょっと意味が異なるのである。
銀行がお金を貸すに当たって審査をする時、重視するのはズバリ「お金が返ってくるか否か」である。例えば賃貸物件を建てる(または購入する)プロジェクトである場合、「計画」を審査するのは当然であるが、「お金が返ってくるか」という視点からは、「計画通りに行かなかった場合」も当然検討する。その場合、例えば「担保を売れば返済できる」と考えれば審査は通るのである。
「銀行が大丈夫と判断して融資したから大丈夫」と誤解している人は、このことを理解していない。銀行は、「計画がうまく行くか」と同時に「うまく行かなかったらどうするか」も同時に考えるのである。担保物権(賃貸物件)を売って返せれば良し、さらに足りなければ「(返済に充てられる)預金はあるか」、「自宅(不動産)も売れば返せるか」をも考えるのである。だから(いざとなったら売らせられるように)担保を取るのだし、(預金や自宅を差し押さえるために必要ならば)保証人を取るのである。「大丈夫」なのは「銀行にとって」であり、借り手にとってではない。
大学を卒業し、今はもう(合併で)名前の消えてしまった都市銀行に就職したのは、自分なりに考えたつもりではあったものの、結局は正解だったと思っている。25年ちょっと勤めて退職したが、その間主として融資畑を歩み、数多くの中小企業の担当をさせてもらい、自分なりにも勉強した結果、金融リテラシーは基礎体力として身についたと思う。その一方で感じるのは、金融についてあまりにも疎い人が多いということ。簡単に保証人になったり、簡単に億単位のお金を借りたり、借りる事ばかり考えて返済のことはほとんど考えず、挙句に胡散臭い投資話に簡単に乗ってしまう・・・
日本人は、基本的にお人好しだと思う。それは決して悪いことではないし、美徳だと思うが、こと金融に関してはマイナスに働く場合が多い。「迷惑はかけないから」という言葉を信じて保証人になったり、相手の言うことを何の疑いもなく鵜呑みにして億単位の投資をしたりするのは、基本的に「相手を疑う」と言うことをしないからである(悪くて断れないと言うのもあるだろう)。「相手を疑え」と言うのは世知辛い気がするし、日本人の美徳が失われても困るし、難しいところである。
何の漫画だったか忘れてしまったが、その昔読んだ松本零士の漫画で、(「銀河鉄道999」だったかもしれない)お人好しばかりが住む惑星の話が出てくる。一見、いい星だという気がするが、相手を疑う事を知らない人というのは簡単に騙されるのだと説明されていて、子供心になるほどと思った記憶がある。自分の中に悪の心があるからこそ、相手の悪意を感知できるのだと。それは詐欺などの悪意ある犯罪の場合だが、自分の中で「うまくいかなかったら」と反射的にリスクを考える考え方は銀行員時代の賜物だろう。
そういう感覚が身についているからこそ、疑いもなく相手の言うことを鵜呑みにする人の考え方はよくわからない。これだけ世間的にオレオレ詐欺が報じられているのに、まだ引っ掛かる人がいるのも然り。騙されたり思いもかけずに損失を出したりする人には気の毒であるが、せめて金融リテラシーについてはもっと関心をもって身につける必要は誰にでもあると思う。と言ってもそんなに難しいことではない。考えるべき問いはたった一つ、「計画通りにいかない場合はどうするのか?」だけである。
【本日の読書】
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