2025年8月11日月曜日

論語雑感 子罕第九 (その9)

論語を読んで感じたこと。解釈ではなくあくまでも雑感
【原文】
子見齊衰者、冕衣裳者、與瞽者、見之雖少必作。過之必趨。
【読み下し】
さいものと、べんしょうものと、しゃとをれば、これわかしといえどかならつ。これぐればかならはしる。
【訳】
先師は、喪服を着た人や、衣冠束帯をした人や、盲人に出会われると、相手がご自分より年少のものであっても、必ず立って道をゆずられ、ご自分がその人たちの前を通られる時には、必ず足を早められた。
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 時代と文化とが違うためなんとも言えないが、孔子の時代は喪服を着た人や、衣冠束帯をした人や、盲人に対しては道を譲るというのがルールというかマナーであったのだろう。現代の我々の社会においては、電車の中の優先席の考え方が当てはまるのかもしれない。電車の優先席は、以前は「シルバーシート」と呼ばれていて、文字通り「お年寄りに譲る席」という感じであったが、今はお年寄りに限らず、体の不自由な人、妊婦などにその範囲が広がっている。だから「シルバー」ではなく「優先席」なのだろう。

 この優先席であるが、「優先」であって「専用」ではない。したがって、非該当者は座ってはいけないという事はなく、空いていれば座っても構わないわけである。そう考えて私も空いている時には座るのに躊躇はしない。ただし、優先されるべき人が来た時にはきちんと席を譲っている。最近は鞄に妊婦マークやヘルプマークをぶら下げている人が増えてきていて、それはそれで譲るべき目安となって助かっている。特にお腹のあまり出ていない妊婦さんなどは、見た目で判断できないので大いにいいと思う。

 それにしてもヘルプマークをつけている人であるが、一体その理由はなんなんだろうといつも思う。そもそも「外見からわからない」からヘルプマークをつけるわけであり、見た目でわからないのは当然であるが、それにしてもどういう理由なのかはいつも気になっている。先日などはお腹の大きな女性が目の前に立ったため、席を譲ろうとしたのであるが、顔を見て躊躇してしまった。マスクをしていたのではっきりわからなかったのであるが、何となく40代後半に見えたのである。果たして本当の妊婦であろうかと疑問を抱いたのである。

 席を譲るのはわけない事であるが、妊婦でなかった場合は微妙である。お腹は立派な妊婦なのであるが、その中に生命が宿っているか否かでまずい結果をもたらす可能性もある。隣には若い女性が座っていたが、知らん顔をしている。それはそもそも譲る気がないのか妊婦ではないと判断しているのかはわからない。迷いに迷って席を譲ったのだが、相手の女性は怪訝な表情を浮かべながら席に座った。どうやら妊婦ではなかったようである。まぁ、女性に席を譲るのは男子たるものの務めであり悪くはないが、「紳士としての行動」と心の中で言い訳をしていた。

 それはともかくとして、エレベーターでは後から乗り込んだ場合は必ずパネルの前に立ち、降りる人が降りる間、「開」ボタンを押して自分は最後に降りるようにしている。最近、そういう行動を取る人をよく目にするが、自分もそうするようにしている。他人に何かを譲るというのは、ゆとりの表れであると思う。持てる者から持たざる者に対するゆとりの譲渡である。孔子の場合は「礼儀」の意味もあるかもしれない。ただ、それにしてもゆとりがあるから礼儀を守れるという事もある。ゆとりがなければ譲る事はできない。先日、『セーヌ川の水面の下に』というパニック映画を観たが、サメに襲われそうな時に先を譲るのは難しいだろう。

 昨年の正月に羽田で航空機事故があったが、幸い乗客全員無事避難して旅客機に被害はなかった。乗務員の誘導が見事だったと思うのだが、乗客もパニックに陥る事なく避難したのだろう。その時のゆとり度はどのくらいであったかわからないが、そういうパニック時でも、いわんや普通の時においては尚更譲り合うゆとりは持ちたいものである。それは他人に対する親切というよりも自分自身に対する心の余裕といった方が正しいかもしれない。

 例え遅刻しそうで急いでいる時においても、人を押し除けて行くのではなく、エレベーターを降りるわずかな時間、ボタンを押して最後に降りるゆとりは持ちたいと思う。何よりそういう人間でありたいというのが一番である。常にまわりを見回す余裕を持ち、一歩下がって他の人に道を譲る。そういう行動をこれからも心掛けていきたいと思うのである・・・


LeejoannによるPixabayからの画像

【今週の読書】
 日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書) - 小熊英二 猪木のためなら死ねる! 2 「闘魂イズム」受け継ぎし者への鎮魂歌 - 藤原喜明, 前田日明, 鈴木みのる





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