先日、『127時間』という映画を観た。アメリカの峡谷で、岩に腕を挟まれて動けなくなった青年が、タイトル通り127時間かけて脱出する映画である。実話だそうであるが、その脱出劇はなかなかである。印象に残ったシーンの一つは、青年がなんとか岩場を脱出し、意識もうろうとしながら助けを求めて歩くうちに、とある水たまりを見つけるところである。何日も溜まっていたような汚い水たまりであったが、青年は意を決してその水を飲む。普通であれば誰も飲みはしないが、ほぼ5日間、水筒の水と最後は自分の尿まで飲んで渇きをしのいだ青年に迷いはなかったのだろう。
究極的に渇けば、汚れた水でも飲むだろう。それが便器の水であってもだ。渇きだけでなく、食べ物でも飢えればゴミ箱に捨てられた食べ物でも食べるだろう。そしてそれは何にでも当てはまる。NETFLIXのドラマ『配達人』は、汚染された大気の地球で、「酸素」を配達するSFドラマである。映画『トータル・リコール』も酸素が有料となった未来社会を描いたSF映画であった。失って初めてその価値に気づくのはよくあることで、恵まれているとその価値に気づけなかったりするのは人の常であろう。人類がSDGsなどと言って環境に目覚めたのも、温暖化や環境汚染で自分たちの住む環境の大事さに気づいたからに他ならない。
コップに半分の水が入っていて、それを指して「コップに水が半分“も”入っている」と考えるか、「コップに水が半分“しか”入っていない」と考えるかによって、物の見方、考え方は大きく異なるという話はいたるところで耳にする。これも似たようなもので、水の価値に気づいている人は「半分“も”」と考えるし、そうでない人は「半分“しか”」と考えるだろう。砂漠から命からがら逃れてきた人などは、あるいは近隣に汚れた水場しかなかったり、水場まで何キロもあったりすれば、きれいな水が「半分“も”」入ったコップはありがたいだろう。
『シリアにて』という映画は、内戦下にあるシリアのあるマンションの一室に住む家族の話であった。外に出た住人が狙撃されて目の前で倒れているが助けにも行けない。水道は止まっているから、汲み置きした水を小分けして使う。「普通に」水を使った子供が母親に怒られるシーンが出てきたが、水の貴重さに気づいていない子供と気づいている母親との意識の違いである。物資に恵まれた日本にいると、あまりそうした飢餓感は感じられない。だから、そういう感覚は鈍りがちである。昨年春に地震があって、久しぶりに停電を体験したが、たまにはああいう経験も必要だと思ってみたりする。
それは物資のみに限らず、勉強などもそうである。進学したくても家庭の事情等で進学できないとなれば、人は勉強したいという思いが強くなるだろう。何の苦労もなく進学するから授業をさぼったりできるのである。私は中卒の父親の話を聞いて育ったせいもあり、浪人中に予備校に行きながら適当に勉強している先輩などの姿を見て反発し、宅浪中は1日10時間のノルマを己に課して勉強した。そして大学へ入ってからは、授業はさぼって適当に単位だけを集めていた周囲にバカじゃないかと言われるほど講義に出席していた(その割に成績はイマイチだった)。私なりに恵まれた環境に甘えたくなかったのである。
それは仕事にも当てはまる。いざ失業となると不安に駆られるものであり、毎月収入があるありがたさは収入を失わないとわからない。仕事に対して不満を言う前に、就活で苦労したり、失業したりした時のことを考えてみるといいと思う。もちろん、ブラックな会社は別であるが、不満を言う前にそれを改善する努力をしたり、考え方を変えたりすることができるのではないかと思う。自分が果たしてもらっている給料以上の働きをしているかは、一度己自身に問うてみる必要はあるだろう。少ないと不満に思う給料であっても、深刻な職探しよりはるかにマシだと思う。
そうしたもののありがたみを意識する事は大事だが、それに捉われるのもよくないと思う。127時間かけて脱出した青年でなければ汚れた水など飲む事もないし、飲む必要もない。むしろ今はお金を払っても天然水などを飲む時代である。お値段の高いオーガニックな食品を求めたりもするし、だから成城石井のようなスーパーが利益を上げられるのであり、それはそれで悪くない。それらは人類の進歩であり、飽くなき満足感の追求こそが人類が発展してきた理由だろう。ありがたみを意識しつつ、「もっともっと」と求める探求心も必要だろうと思う。
大事なのは、コップに「半分“も”」水が入っていると何時いかなる時もそのありがたみに感謝しつつ、「半分“しか”」入っていないとして残り半分を求めて努力する気持ちだろうと思う。私自身も今の恵まれた生活に感謝しつつ、まだまだ「半分“しか”」と考えて飽くなき改善努力を続けていきたいと思うのである・・・
AnjaによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】
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