2019年11月15日金曜日

スポーツマンの引退

いつだったか、元プロレスラーの馳浩(現衆議院議員)が、「スポーツマンに引退はない」と語っていたのを覚えている。たしか、議員転出にあたって「プロレスは引退するのか」と問われての答えだったように思う。その状況はともかく、「スポーツマンに引退はない」という言葉だけが妙に印象に残ったのである。というのも、その頃ちょうど私も30を越え、ラグビーの引退を考えていたからである。

妙に共感するところもあり、自分の中では「引退」という区切りをつけることなく、なんとなくラグビーからフェイドアウトしていった。それはいまだにたばこは普段吸わないものの、「禁煙」したわけではないのと同じである。35歳くらいまでは勤務先の銀行のチームで試合に出ていたが、その後自然に試合から遠ざかっていった。子どもが生まれ、一応子育てにも参加していたし、時間的にも肉体的にも続けるのが難しくなっていったからである。

ラグビーは肉体と肉体がぶつかり合う激しいスポーツである。試合をするからにはそれに備えてトレーニングをしないといけない。当時も大先輩が年齢に合わせたゆるやかなシニアラグビーをやっていたが、当時の私の感覚ではそんなのは邪道で、激しいぶつかりあいのないラグビーはラグビーではなく、そんな「みっともない」ラグビーなどするべきではないと思っていた。当然、そんなラグビーを自分も続けようとは思わなかったからそれでいいと思っていた。

自然とグラウンドから遠ざかり、何となく振り返ってみれば、「自分の最後の試合」はあの試合だったなぁと思うようになっていた。それは、銀行で年に一回恒例として行われていた東西対抗戦であった。その時は「引退試合」という意識はなく、振り返ってみればそうだったという感じである。だから、その時は特別な感慨も抱かなかった。人生の折り返し地点と一緒で、気がつけば過ぎていたという感じである。

それが、大学のシニアチームに誘われ、練習に参加するようになった。その時は、運動不足の解消というのがテーマで、試合までやりたいとは思わなかったが、やりだせば誘われる。断るわけにもいかずに久し振りに試合に参加したのは4年前。見事に肩を負傷した。しかしながら、やってみれば面白い。体力は衰えていたが、周りはみんな自分より年上だったし、それなりにできたのである。たぶん、傍から見れば自分が「みっともないラグビー」と思っていたような試合だったと思うが、試合に出ている立場からすると以前と変わらぬ感覚であった。「面白い」と素直に思った。

以来、高校の先輩の伝手を辿り、某他大学のシニアチームに所属し、毎週練習に参加している。試合にも声がかかれば参加している。残念ながら所属チームは60代以上が中心で、50代の私はなかなか出ることができない。しかし、いろいろなところから声がかかり、試合には折に触れて出場している。試合が終わればあちこち痛いし、打撲、擦り傷は絶えない。タックルも現役時代と同じ様に(と言っても実際には衰えているだろうが)できる。ラグビー自体、ルールも変わって進化しているので、アップデートのための研鑽は欠かせない。気がつけば、35歳の時の試合は「引退試合」ではなくなっていた。

では本当の引退試合はいつだろうか。チームの先輩は、70代の方が頑張っている。仲の良いチームには80代の方がいる。シニアの試合はパンツの色が年代で決まっている。40代以下は白、50代は紺、60代は赤、70代は黄色、80代は紫である。やろうと思えば、まだまだ先は長い。たぶん、若い人から見たらスピードも遅いし、「みっともない」と映るに違いない。特に60代以上の「赤黄の試合」になればその傾向は顕著である。だが、「いいじゃないか」と最近は思う。人から見てみっともなくても、自分が楽しいのだから。

ラグビーは肉体と肉体がぶつかり合う激しいスポーツである。しかし、人間の肉体は年齢と共に衰えていく。だから、今の自分が20代の若手と対等に試合をするのは無謀である。だが、同年代ならそうとも言えない。十分、身の丈に合った試合ができる。それに意識も変わってきている。以前は相手チームの選手に対しては、「倒すべき敵」という風に考えていたが、今は「試合をする仲間」とでも言うべき感覚である。何より相手がいないと試合にならない。時に人が足りなくて苦労することもあることを考えると、相手チームの選手であっても「仲間」なのである。

 そんなわけで、当分「引退」とは無縁でいられそうである。「ラグビーができなくなったら、テニスかゴルフをゆっくり覚えよう」と思っていたが、どうやらそういう日は来そうもない。だが、それでいいと思う。16歳で出会ったスポーツを生涯のスポーツとして、これからも楽しみたいと思う。「スポーツマンに引退はない」と改めて強く思うのである・・・




【本日の読書】
  
   
   

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