先日の事、我が社で残業時間に関する報告ルールをひとつ決めた。我が社も労使間で三六協定を締結していて、月間の残業時間の上限は45時間としている。我が社では、中間管理職たる課長さんがこれを管理している。しかし、すべて課長任せにするのも大変なので、部下の方からも警告をあげてもらうようにしたのである。すなわち、「月中で20時間を超えたら課長に報告せよ」と。これによって課長もメリハリのついた管理ができる。課長の管理負担を軽減しようという狙いである。
しかし、これにあるベテラン社員から意見が入った。曰く、「月中とはいつか。15日か、2週間か、21営業日の月であれば10営業日目か11営業日目か、曖昧だと社員によって解釈が分かれる可能性があり、はっきりさせてほしい」と。もっともな意見であるが、意見を寄せてきたのがベテラン社員だったのがちょっと残念でもあった。ルールは守らねばならないのは当然であるが、ルールについては「その背景にある意図」にも目を向けて欲しいのである。そしてベテランであれば、当然ルールの「てにおは」ではなく、意図を汲んで欲しかったと思うのである。
なぜ、「月中で20時間」なのか。当然、倍にすれば40時間である。すなわち、月の真ん中で20時間を超えていれば、最終的に45時間を超える可能性が高くなる。なので、早めにその情報をキャッチしておこうというものである。重要なのは「月45時間を超えそうか否か」である。であれば、「月中」が15日であろうと10営業日であろうとどうでもいいわけである。私のように何でもスマホの「リマインダー」で管理している人なら、15日とでもしておけばいいわけである。こだわるところではない。
逆にそういう意図がわかっていれば、月初であっても「今月はヤバそうです」と早めに相談すればいいわけだし、月中で30時間超えていても、「今月はもうピークを越したの心配ない」とプラスαの報告ができる。こうなるともう「デキる部下」である。「曖昧なルールで縛られたらかなわない」という思いがあるのかもしれないが、こだわるところがずれている。社員の中でもレベルには差があるが、将来管理職になるような社員は、得てして「一段上の視点」でものを見ることができる。ルールであれば、その「背景にある意図」を察することができると思うのである。
私はけっこう昔から「ルールの背景にある意図」を割とよく理解してきたと思う。銀行時代は、新たなルールが制定されると、「何か事務事故でもあったかな」とよく考えた。「そういうルールを制定したのは何故か」と考えると、だいたいどこかの支店で事務事故があって、その再発防止策なのだろうと推察できたからである。もちろん、それをそのまま疑問にも思わず、「自分は従うだけだから」と受け入れる人も多かったが、「背景にある意図」を想像する想像力はいろいろなところで役だったと思う。
なぜ車に乗ったらシートベルトをしなければならないのか、なぜ自転車に乗る時までヘルメットを被れというのか、ちょっと考えれば簡単に想像のつくルールもあればそうでないものもある。後部座席にまでシートベルトをするなんて面倒この上ない。しかし、その背景を理解すれば、「タクシーでちょっと移動するくらいなら省略しても、高速道路を走るのであればした方がいいかな」とか、自分である程度考えることにもつながる(もちろん、「すべて着用する」のが正解なのはよくわかっている)。
こうしたルールを目にした時、その背景に目が行くかあるいは「てにおは」に目が行くかは、その人が日頃どんな思考をしているかを知る目安になるように思う。「てにおは」に目が行くという事は、ルールを厳格に守ろうという気持ちはあるのかもしれないが、逆に表面上の文字に囚われて本質を外す可能性がある。先の例であれば、「15日に残業時間の合計が19.5時間だったから報告不要」と考えて報告せず、結果的にその後残業時間が加速して増え45時間を超過した場合、その課長は不意を打たれる可能性がある。
もちろん、課長は課長で管理職としてそんな報告がなくてもしっかりと管理しなければならない。しかし、管理職にとって「できる部下とは」と考えると、それは圧倒的に「手間のかからない部下」である事は間違いない。「あいつは何かあれば必ず報告してくる」という信頼感が厚ければその部下に管理の意識を向ける必要もない。不意打ちで45時間超えて慌てさせてくれる部下が「できる部下」であろうはずがない。「何をやるかわらかないから眼が離せない厄介な部下」なのか「できる部下」になるのかはその人自身の心掛け、意識次第である。
ベテラン社員には、「意図をよく考えて表面的に従わないでくれ」と釘を刺した。ベテランであるからそのあたりはよく理解して欲しいところであるが、我が社の社員ももう少し啓蒙していく必要があるなと感じさせられたエピソードである。根気強く啓蒙活動をやろうと思うのである・・・
Paul SteuberによるPixabayからの画像 |
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