両親の住む実家が道路の拡張計画の実施により立退きを迫られている。既に何度か説明を受け、金額の提示もあって契約するかどうかという段階である。契約すれば最大でも2年以内に立ち退かなければならない。そういう状況下、重要なのは「次にどこに住むか」である。私だったら、「どこにしようかな」と半分ワクワクしながら家を探すところだが、両親の腰は重い。そこにあるのは、「動きたくない」という感情である。
両親ともに既にリタイアして、今は「毎日が日曜日」の状態である。ならば引越しするのに通勤・通学という足かせがなくて良さそうなものであるが、ネックとなるのは「知り合い」。父はともかく、母はご近所でそれなりに付き合いがある。引越してしまうと、周りは知らない人ばかりとなり、1から人間関係を築くのは辛いということらしい。私の年代ではさほど気にもならないが、齢80を越えた母からすると、それはもう煩わしいものにしかならないのかもしれない。
一応不動産屋の端くれとして、私も両親の家探しを手伝っているが、どうもこれといった物件に出会えていない。主な要因は住みたいエリアと価格とのバランスが取れないということに尽きる。立退きとは言え、高額補償してくれるわけではない。それなりに合理的な価格(説明の出来る価格)を提示してくるわけである。それでも担当者が汗をかいてくれて、可能な限り上乗せしてくれたものの、実家のある武蔵小山界隈ではおいそれと変わりは見つからない。
父は近所で新築物件の売り出しがあると、見に行ってはため息をついている。もとより金額的に実家の界隈は地価が高いし、買える金額となるとせいぜいが「狭小三階建て」となる。そうなると、まもなく階段を上がれなくなるリスクを考えると息子としては勧めにくい。ならばマンションではと勧めると、今度は飼っている猫の処遇に困ると言う。あちこち話が飛んでは結局、「今の家が良い」という所に戻ってくる。
そんな状況に業を煮やして、父は生まれ故郷である長野県の富士見に家を買おうかとも言いだしている。故郷だし、何より地価も家も安い。田舎なら諦めた車の運転もできるとあって、かなり「本気モード」である。だが、息子としては勘弁してほしいところである。住みたいところに住むということに反対はしないものの、すべて現状に基づいて考えているところが問題である。父の年齢であれば、5年後のことも考えてもらいたい。
今は父も元気で車の運転もできるだろう。だが、5年後、10年後はわからない。それに父が入院でもしたら運転の出来ない母は身動きできなくなる。病院まで毎日タクシーで行くのだろうか。その間の買い物も毎日タクシーで行くのだろうか。そんな事を言ったら、今そこに住んでいる人もそうだと言えるが、長年住んでいる人と、60年以上も経って里帰りする者を同列に比較するのは適切でないと思う。
さらに息子の立場からも困ったことになる。今でこそ月に1回の母の病院への送迎は苦も無くこなしているが、富士見へ転居となればそうもいかない。気軽に会社帰りに立ち寄ることもできなくなる。遠いと言っても、中央高速で富士見まで2時間半ほどであるが、だからと言って、それは気軽に行ける距離ではない。何かあった時にすぐに駆け付けるのにはちょっとしんどい距離である。もちろん、父はそんなことは考慮していない。
引越しせざるを得ない状況は変えられない。どこへ行っても周りは知らない人ばかりなのも変えられない(まぁ妹の叔母夫婦の近くに越すという選択肢はあるが、それでも隣というわけにはいかない)。ならば「変えられないもの」にこだわってズルズル引き伸ばすより、さっさと引越ししてその先で新しい生活を始めればそれだけ新しい知り合いも早くできるというもの。だが、そんな「合理的判断」を両親に求めるのは困難である。
【本日の読書】
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