毎日の通勤電車は、私にとっての読書タイムである。その読書タイムに読む本の半分は、ビジネス本である。こうしたビジネス本だが、読み始めたのは社会人になってからのこと。もともと本は好きで読んでいたが、読んでいたのはもっぱら小説。それが社会人になってビジネス本を読むようになったのは、ある一冊の本がきっかけである。
その本は、落合信彦著 『狼たちへの伝言』である。どういう経緯でこの本を買ったのかは、もう忘れてしまった。だが、一読した時の衝撃は凄かった。この本は、落合信彦氏が自身の経験をもとに書いた若者たちへのメッセージだが、そのメッセージが見事に私の心に突き刺さってしまったのである。
まずご本人の経験が凄い。父親は女を作って家を出てしまったため、母が子供二人を女手一つで育てる家庭。貧乏で大学に行くお金もなく、独学で学んだ英語を頼りに米大使館を訪ね、アメリカの大学の入学資格と奨学金を得る試験を受けて合格する。しかし、アメリカへの渡航費なんかなく、港に泊まり込んで船を捜し、臨時雇いの船員として船に乗せてもらう。そして着いた西海岸から、コーラで腹を満たしながらヒッチハイクで大学のある東海岸へ行く。
大学でもひるむことなく周りに立ち向かう。舐められたら終わりという中で、空手で培った度胸とケンカの腕で認められていく。大学を卒業後は、世界を股にかけ、オイルビジネスを手掛ける。そんな経歴から、軟弱な男を叱咤し、熱く生きろと語る。まさに、「狼は生きろ、ブタは死ね」のメッセージは、当時の私の心に大きく響いた。もともとそれに共感する気持ちが育っていたから、なおさらであった。
何より説得力があったのは、意思の強さと行動力だろう。日本を見限り、アメリカへ行こうと決意するが、お金がないから英会話スクールなんかには行けない。映画館へ行って一日こもり、好きな映画を何度も観て、暗闇で聞き取った英語を書いて覚えたという(そのあたりの経緯は別の本で知った)。その上で、ある牧師さんと出会い、そこに出入りして実地で英会話を覚えたらしい。
「お金がないからできない」ではなく、「ならどうする」か。「天才が1時間かかってやることは、2時間かけて追いつき、3時間で追い越す」(本多静六)の考え方にも相通じると思うが、こういう考え方にはメチャクチャ共感してしまう。餌が目の前に置かれるのを大人しく待っているのではなく、なければ自分で探して取りに行く。言葉で言うのは簡単だが、今でも目の前に餌が置かれるのを大人しく待っている者は多い。
さらに国際情勢についての解説は、新聞を読んでいてもわからないようなことが語られる。今読むとさすがに事例は古いが、当時政府がアメリカからイージス艦を買ったとニュースでやっていたのが、実はそれはアメリカに買わされたのだとか。この本を契機に、ニュースを表面的に理解しないようにしようと思うようになったのは、間違いない。
そして最大のメッセージは、「男は生き方だ」ということであろう。「イイ女を抱きたかったら、DCブランド(懐かしい言葉だ)に身を包むよりエキサイティングに生きることだ!」
「ローンで身を飾り、ラーメンをすすって外車を乗りまわしたって、男の価値は上がりゃしない!」もともとおしゃれは苦手だったし、鏡の前では髪型よりも筋肉の張りの方を気にしているくらいだったから、こういう言葉が心に響いたのである。今でもエステで脱毛なんてやる男は、心の底から軽蔑してしまう。
筋肉ばかりでなく、教養も必要だと説かれていたから、その手の本にも手を出すようになった。当然、他のビジネス本にも手を出すようになっていったのである。そういう意味で、影響力の大きな一冊であったと思う。
今読み返してみると、あの頃のようなインパクトがないように思える。ただ、それは自分があの頃よりもはるかに成長した証かもしれないし、すっかり自分の考え方として定着したからかもしれない。いずれにせよ、まだ若くて多感なあの頃に出会って良かったと思える本である。今は本棚の奥ですっかり埃をかぶってしまっているが、大事に取っておきたい一冊なのである・・・
【本日の読書】
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