先日の事、車で移動中に見慣れない建物を見かけた。何の建物だろうと思ってよく見たら、パチンコの景品交換所であった。パチンコをやらない私でもとりあえずパチンコの仕組みは知っている。店内で出た玉を景品と称する棒に替え、それを景品交換所に持ち込むと現金に変えてくれる。交換所は当然、そのパチンコ店の運営である。なぜそんな事をするかというと、日本では賭博が禁止されているから、パチンコの玉を直接現金に替えることは賭博行為にあたるからできず、あくまでも店内では「景品に交換する」ことになっているからである。
子供の頃、親戚の叔父さんがよくパチンコで勝ったと言ってはガムやチョコなどをくれたものである。子供心に大人にはどんどんパチンコに行ってほしいと思ったし、自分でも行きたいと思ったものである。その頃、既にこうした「現金化」が行われていたかどうかはわからないが、わざわざひと手間かけて「景品交換」の形を取ることに何の意味があるのかとも思う。そんな仕組みは誰でもが知っているだろう。警察だってそうである。明らかに脱法行為の現金化であるが、このくらいは良いだろうという裁量の下、建前上「景品交換」という形にすることで見逃しているのだと言える。
考えてみれば、こうしたことはソープランドについても言える。ソープランドで行われている行為は明らかに「売春行為」であり、売春防止法に違反している。それは警察だってよく知っているが、取り締まったりはしていない。なぜかと言えば、男にとって性欲の発散は不可欠であり、ソープランドがあることによって性犯罪を防ぐという効果もあるだろうし、言ってみれば「必要悪」として目をつぶってもらっているのだと想像できる。パチンコと違って建前はないが、人目につかない密室での行為である事から形式的な建前もいらないのだろう。
私の働く不動産業界でも事実上の脱法行為は存在する。普通、賃貸の部屋を借りると不動産会社に「仲介手数料」を払うことになる(大家と直接契約すれば不要である)。それは大抵「家賃の一か月分」であることが多い。しかし、実は法律上は仲介業者は大家と賃借人双方から「合計で一か月分」、賃借人からは「半月分」しかもらってはいけないことになっている。しかし、「合意があれば」一か月分もらっていいことになっている。それで普通賃借人からは一か月分をもらい、大家さんからは「広告費」という名目で一か月分をもらっているのである。
なら、「合意しなければいいのでは」と思うだろうが、それはその通りである。ただ、それを知っている賃借人はほとんどおらず、「手数料は一か月分です」と説明され、ハンコをつけば「合意した」とみなされるのである。もちろん、業者さんによっては「エイブル」のように初めから半月分しかとらない良心的なところもあるが、多くの零細業者はできる限り手数料を稼ごうとするので、堂々と一か月分を請求しているのである。その仕組みを知っている人が抗議してみたら面白いと思うのだが、そうしたら「紹介しない」という対応をされるかもしれない。一度どこかで試してみたいと常々思っている。
いずれも法律の陰でこっそりと商売をしているものと言える。こういう例はほかにもいろいろあるだろう。それがすべて悪いとは思わないし、法律を改正すべきとも取り締まりを強化すべきとも思わない。それはきっと社会に必要な「矛盾」なのだと思う。人間社会のことだから、何でもきっちり決めてやるというわけにもいかないのだろう。売春も合法化するのは問題があるし、きっちり取り締まれば別のところで犯罪が増えるかもしれない。そういうジレンマをうまく解消しているのだろう。
民泊やウーバーなどの新しいサービスは、そもそも法律が追い付いていないというものもある。個人的には「矛盾」は好きではないのであるが、世の中いろいろな都合があって「矛盾」をスルーすることによってうまく収まっているのかもしれない。憲法第9条なんてその最たる例だろう。一々目くじら立てていても仕方がないのかもしれない。それでも個人的には憲法くらいは「矛盾」を解消するべきだと思うが、考えてみればそれも世の中に必要な「矛盾」なのかもしれないとも思う。
それで世の中がうまく回っているのであれば、こうした世の中の「矛盾」も悪くはないのかもしれないと思ってみるのである・・・
【本日の読書】
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