再び先週末に観た映画『異動辞令は音楽隊!』より。主人公の母親は認知症である。主人公が夜、帰宅すると母親が外に出ている。そして「お父さんがまだ帰ってこない」と言う。主人公は半ばキレかけて「親父は死んだって言っただろう」と母親を叱る。家の中に入れば、「お父さんはもう死にました」という張り紙があり、他にも張り紙が見える。認知症とは文字通り認知能力が衰えるもので、主に記憶部分が劣化するのだと思う。我が家の老親もその傾向にある。大げさな話ではなく、記憶は3分ももたない。「今日は何日だっけ?」という質問を発し、答えて理解した直後にまた「今日は何日だっけ?」という質問を受けるのは日常である。
あまりにも同じことを繰り返されるといい加減にしろよという気持ちが強くなる。主人公が怒るのもよく理解できる。また、そんな調子だから言って伝えることは無益である。したがって「紙に書く」事になる。気が付けば我が家もさまざまな「メモ」が家の中に氾濫している。しかし、それでも慣れてしまうのか、メモを無視されることもしょっちゅうである。始めはイライラして怒っていたが、それも無駄なことであり、また自分自身に対する嫌悪感も強まることから怒らないように心掛けている。
基本は鏡のように穏やかで静かな心「鏡心」である。今年の目標でもある。相手が母親だと思うから腹が立つ。3歳の子供だと思えば腹も立たない。そう考えるようにしている。それに母親の私をイラ立たせる行動の根本にあるのは、「子供のために」という世の母親に共通する行動原理である。私が用意し、食べ終えて洗った食器の片付けとか。干した洗濯物を取り入れたりとか。布団を敷くためにテレビの前にある座椅子を移動させるとか。座椅子など腰が悪いから動かすのもしんどいと思うが、それでも動かしてくれる。
食器の片づけは、「元の場所」に戻してくれるなら問題ない。ところが母親はそれを覚えておらず、適当にしまう。そのため、場所が変わってしまい、私が次に使おうとしてあちこち探す羽目になる。見つかればまだしも、見つからない時もある。しゃもじなど台所以外のどこにしまうのかと不思議で仕方がないが、今も見つかっていない。洗濯物も同様。背が低いので無理に引っ張って洗濯ばさみを壊したり、適当にしまってわからなくなったり。座椅子はまだ使うのでそのままにしておいてほしい。こんな具合に「好意」からの行動であっても「よけいなこと」になっている。
家事はすべて私がやろうと思うが、本人の生活力の維持のため、少しは何かをやってもらおうと思っている。「ご飯を炊く」というのがその一つ。言い残して行っても忘れるから、帰る前に電話をする。返事は良いが、帰るとご飯を炊いていない。まぁそこから炊いても少し夕食の時間が遅くなるだけでどうという事はない。根気よく繰り返したら言わなくても炊いておいてくれるようになった。
しかし、今度は「炊かない」という事ができない。ジャーに「ご飯は炊かない」と書いて張っておいても、「昨日のかと思った」と言ってはがして炊いてくれている。こうなると頭脳戦である。そして張り紙+お釜を隠すという作戦に出た。ところが隠したお釜を見つけられてご飯を炊いてくれた。そして今度は見つからないところに隠したが、それでようやくご飯を炊くことを阻止できた。相手を責めるのではなく、自分に原因があると考える。「自分が源泉」のいい行動例である。
『異動辞令は音楽隊!』の主人公もまだまだである。いちいち腹を立てても仕方がない。我が家の両親はまだ会話はできる。「お昼に何食べた?」と聞いても答えは「?」しか返ってこないが、昔の話を聞けば嬉々として答えてくれる。学校から帰るとまずは飼っていた馬の餌の干し草を切ることが仕事だったと語る父。「長男大事」という風潮で、家の仕事は次男である父にすべて回ってきたようである。それが不公平で嫌でたまらなかったらしいが、今では「俺は親父の(農作業の)右腕だった」と誇らしそうに語る。
母もおそらく言動がおかしくなってきたからであろう、最近町内会の役職を解任されたという。本人は不満げだが、町内会の人の考えもよくわかる。それでもまだ家の前の公園の花壇の手入れという区から任されている仕事はある。公園で雑草を取ったりという事を続けている姿は腰が悪いためしんどそうに思うが、それでもやりがいになっているところもあって何も言わずに見守っている。最近、「要介護1」の認定を取ったが、まだ施設に入らなくて済むだけありがたいと思う。
映画の主人公を見て、「怒ってもだめだよ」と思ったが、それは我が身を写した鏡のように思う。怒ったりイライラしても問題は解決しない。事実をどう受け止め、どう行動するか。老親との暮らしは自分を鍛えてくれる。そうして己を鍛えつつ、残り少ないであろう3人での生活を心穏やかに送りたいと思うのである・・・







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