就職戦線の早期化は困ったものだとこの時期特に思う。一方で4月に新入社員を迎える準備に追われつつ、一方で27年卒の採用が動き始めている。我が社は悲しいことに首都圏では知名度が低く、いきおい地方での採用が中心になっている。北は札幌から南は鹿児島まで新卒学生を求めての行脚である。例年学生を採用させていただいている各学校の就職課の方とは日頃から情報交換をさせていただいているが、近年目につくようになってきたのは、学生の「地元志向」である。地元の企業を志望する学生の割合が増えてきているのである。我々のような企業にしてみれば由々しき事態であるが、胸中は複雑である。
学生の地元志向は果たして是か非か。人口減少時代の昨今、地方自治体においては企業誘致に余念がない。我が社も地方進出を検討する時期に来ているが、各自治体は助成金を手厚くして地元への企業誘致に力を入れている。企業が誘致できればそこで働く社員は確実に地元の人間になる(そういう条件で助成金を支給している)。それはすなわち人口増に結び付くわけであり、それこそが企業誘致の目的であろう。当然、地方自治体としては学生の地元志向は歓迎すべき事象と言える。たしかに、地方に衰退してほしいとは思わないし、若い人が地元に残るのは良いことだと思う。しかし、と思うのである。
若い頃には冒険が必要だろうと思う。冒険と言えば大げさであるが、東京へ出て一人暮らしをしながら厳しい環境(と言えば大げさではあるが)に身を置いて働くというのは悪いことではないと思う。もしも私が地方に住んでいて、息子が就職となった場合、まずは東京に行ってみてはどうかと勧めるだろう(その前に大学進学時に東京の大学へ行けと言うだろう)。かわいい子には旅をさせろではないが、ビジネスマンとして企業で働くのであれば、東京で働くのが一番いいと思う(これが娘なら残れと言うだろう)。
地元志向がどういうものなのか。親の立場からすれば、将来的には同居かあるいはせめて近くに住んでほしいという気持ちなのは想像できる。誰しも老後ということを考えるだろうし、孫の顔を見ながら暮らしたいと思う気持ちは私も同じである。しかしながら当の若者はどう思うのであろうか。親の近くにいたいというのは、将来面倒を見なくてはという義務感だろうか。あるいは生まれ育った地元への愛着であろうか。生き馬の目を抜くかもしれない都会への不安だろうか。人それぞれではあるが、そんなところが挙げられるのかもしれない。
しかしながら、「いずれ地元に戻ってくるなら」と送り出すのはあてが外れる可能性が高いだろう。住めば都で、働いて暮らしているうちに人間は環境に慣れてくるもの。ましてや東京で知り合った相手と結婚した場合、自分だけの話ではなくなる。他県の出身者であれば、自分にとって「地元に帰ること」でもパートナーにとっては「見知らぬ土地へ行く」ことに他ならない。さらに子供が生まれれば子供の教育環境だとか、「転校したくない」だとかの問題も出てくる。そうそう思い描いたライフプランを実現するのは難しくなる。
そう考えると、「若いうちは東京で」という考えは誤算を招く可能性が高いかもしれない。少なくとも軽い気持ちで考えているなら危ういだろう。東京で働くなら何歳まで、結婚相手には将来地元に帰ると事前に告げて了承を得ておくなど、固い意志と準備が必要だろう。そんな事をつらつらと考えると、始めから地元志向というのは、それはそれで懸命なのかもしれないと思う。地元では都会ほど就職環境は良くないかもしれないが、そこは仕事と地元に残ることとどちらを重視するかで割り切るしかない。
私の両親はともに地方出身である。ともに東京に出てきて知り合い、結婚して私が生まれている。父親は地元に残って大工になるか東京に出て働くかの選択肢しかなく、次男であったこともあるが、中学を卒業後に東京に出てきている。さぞかし不安だっただろうと思う。おかげで私は東京生まれの東京育ちであり、「地元か東京か」で悩むことはなかった。考えてみれば大きな悩みを1つ抱えずに済んだと言えるのかもしれない。こればっかりは生まれたところという運の話であるが、「帰る故郷がない」という寂しさと裏腹の運である。
そんな中で、故郷を離れて大志を抱いて東京に出てくる新入社員たちには、いい社会人デビューをしてほしいと思う。将来的に故郷に帰るのかどうかはわからないが、今はオンラインの発達もあり、地元に帰りながらも東京の仕事をすることが可能になってきている。いずれ地元か東京かという問題は大きな問題にはならなくなるのかもしれない。就活学生と話をしながら、そんなことを思ったのである・・・
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| Ilona IlyésによるPixabayからの画像 |
【本日の読書】

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