2025年12月25日木曜日

格言雑感

 先日、出張先のホテルでメモに印刷された格言を見つけた。私は結構、格言の類が好きであり、割とこまめにメモしているが、そんなこともあって目に留まったのである。そこに印刷されていたのは、「人間、所詮入れたものしか出せない」という言葉である。この言葉に特に感銘を受けたという事はなく、「そういう部分もあればそうでない部分もあるのではないか」と単純に考えただけである。確かに、「物理的」に言えばその通りである。人間は食べたものを消化し、エネルギーとしてその活動に必要な部分を取り出し、残りかすは捨てる。トータルでは同じであり、物理学でいう一種のエネルギー保存の法則が当てはまると思う。

 しかし、入れたものが食物ではなくて、知識だったらどうだろうかと思う。もちろん、知識そのものは変化しない。しかし、人間は取り入れた知識を生かして問題を解決する。知識が醸成され、考え方となればその考え方によって問題を解決できる。その広がりは入れたもの以上になるような気がする。一見、それもエネルギー保存の法則に類似して、入れた知識が出ていく点では同じように思う。ただし、知識は忘れない限り何度でも繰り返し利用できる。その点は食物によって得られたエネルギーとは異なる。何度でも繰り返し利用できるという点で、「入れたもの」以上に出せていると言えると思う。

 しかし、量より質に目を向けると、利用する回数という量よりも、解決できる問題のレベルという質の点で入れたもの以上のものが出せているかとなると、また考えさせられるものがある。ビジネス書などを読めば、著者の考えに接してそれまでにない考え方ができるようになるかもしれない。本当はそこに自分なりの考えを付与して発展させれば「入れたもの以上」だと言える。ただ、それは知識の内容によるかもしれない。「全部運が良かったと思いなさい」(松下幸之助)などは考え方のあり方で、慢心を諫めるものであるが、それ以上ではない。

 これに対し、「天才が1時間かかってやる仕事は2時間かけて追いつき、3時間かけて追い越す」(本多静六)なども考え方であるが、天才の仕事ぶりを見て追いつけないと諦めていたとしたら、「時間をかければ追い越せるじゃないか」と考えて継続すれば、それは大きな成果につながるかもしれない。今まで出せなかった成果が出せるようになるという点で、入れた考え方は入れた以上の成果を生み出したと言えるかもしれない。これこそが人間が他の動物と違うところだと言えるのだろう。

 似たものとしては「経験」がある。これは自らの経験を知識に変換したものと言える。「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」という諺があるが、これは一度熱い吸い物(羹)でやけどした経験から、冷たい和え物(膾)までフーフーと冷ましてしまうという状況を表したものであるが、過去の経験が知識となり、行動として表れているものである。過度な警戒心や臆病さを示す諺であるが、これも入れた知識が繰り返し利用される類のものであり(膾を吹く愚かさに気づくという新たな経験=知識を入れるまで続く)、入れたもの以上に出せる例とも言える。

 この言葉を思いついた人の本来の趣旨は違うのだろう。人間は所詮入れたものしか出せないので、入れたもの以上を出そうとしてはいけない、あるいは出せるものには限度があるといったものだろうと思う。天邪鬼な私としては、ついついそういう言葉に反発したくなる。そうではなくて、入れたもの以上に出せる場合があるのではないか、あるいは入れたもの以上に出せないと自分自身の価値はないのではないかと思ってしまうのである。入れたものが「指示」であれば、「言われたことしかできない」という事になる。それでいいのか、と思ってしまう。

 もしも本当に入れたもの以上は出せないのであれば、ならばより多く入れたらいいんじゃないのと思う。学生時代はラグビーに力を入れていたので、そのために常に体重を「あと5㎏」増やしたいと思っていた。太りにくい体質なのか、食べる量が少なかったのか、運動量が多すぎたのか、筋肉はそれなりについた感はあったが、体重はなかなか増えなかった。その体質は今も続いており、今は重宝しているが、もっと食えば良かったのかもしれない。知識に関しては、通勤時間を利用してたくさんの本を読んできたが、その成果は今しっかり出ていると実感している。それもまた良しであると思う。無理に入れたもの以上を出そうとせず、入れるものを増やし続けるのも大事である。

 出張の夜、1人ビジネスホテルの部屋にこもってつらつらとそんなことを考えてしまった。まだまだこれで打ち止めではなく、飽くことなく知識を入れ続けたいと思うのである・・・



【本日の読書】

 全体主義の起原2 新版――帝国主義 全体主義の起原 新版 - ハンナ・アーレント, 大島通義, 大島かおり  センスの哲学 (文春e-book) - 千葉 雅也  失われた時を求めて(4)――花咲く乙女たちのかげにII (岩波文庫) - プルースト, 吉川 一義





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